福岡県は海外の通販サイトで、県のブランド柿『秋王』などを名乗る干し柿が販売されているとして注意を呼びかけている。長年の研究と努力で作り上げたブランド柿。海外での商標をとっていても“偽ブランド”が出回る農産物の難しさとは…。

福岡・久留米市田主丸町。県南部の自然豊かな町で、ぶどうをはじめ、“フルーツの里”として知られている。この日訪れた『いのうえ農園』では、出荷の最盛期を迎えた福岡県のブランド柿『秋王』の発送作業が佳境を迎えていた。

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『秋王』は、柿の出荷量が全国有数の福岡県が、10年の歳月をかけて開発した甘柿のブランド。県内で生産される品種の中で、特に糖度が高く、種が少ないことから人気が高いブランド柿だ。2012年に商標登録され、国内外で商標保護の体制も整えられている。

中国・河北省から届いた“福岡県産”

この『秋王』をはじめ、福岡県産の柿を巡り、深刻な問題が起きている。海外企業が運営する通販サイトで、許可なく『秋王』と記載した干し柿が販売されているのだ。

福岡県産と偽るSNSより
福岡県産と偽るSNSより

SNS上では、『福岡県で最高級の柿を厳選。まるで大人の拳ほどの大きさで、果肉はぎゅっと詰まっています』『甘さが、口いっぱいに広がり、次に果肉はプルンとゼリーの様な食感。濃厚な果実の香りと豊かな甘さが舌の上で踊ります』などと、“福岡県産の干し柿”を名乗る広告が出回っているのだ。広告では、女性が柿を剥いたり頬張ったりと“福岡県産”の干し柿の美味しさを大々的に宣伝している。

しかし、文面をよく見ると、「今回、福岡の果樹園と独占契約し初のオンライン販売を実現。記念キャンペーン実施中で、シチセン880円で、4箱購入するとなんと4箱おまけ」

イエ族みんなで楽しめる最高の贈り物間違いなし」など、所々に不自然な日本語の部分がある。

この干し柿を購入した人達からは、「まるで、詐欺だ!最悪??????送られてきたのは福岡の柿ではない」「福岡県産は嘘です。母が騙されて購入しました。8000円支払って“お取り寄せ”したのに、中国の河北省から送られてきた」と被害報告が相次いでいる。

なぜ、買う気になったのか?購入した男性に話を聞くと、「インスタグラムの広告で、口コミも『まことにいい』と書いてあったので、これは信用できると思い購入した」と話す。しかし、いざ商品が届き、中を開けてみると「全部、中国産で『秋王』ではなかった」更に、酷いことに「袋を開けて臭いを嗅いだら、カビ臭いので、全部捨てた」と商品の劣悪さに腹がたったという。

福岡県が“産地偽装の柿”に注意喚起

「購入サイトの連絡先は、中国の住所になっている。10月下旬、県庁に消費者からメールや電話で『秋王と記載のある干し柿が販売されているが、本当に『秋王』ですか?』という問い合わせがあり県としても調べた」と福岡県園芸振興課の井上直子さんは話す。

その上で県は、ブランド柿の“秋王”や“福岡県から産地直送”などと騙る干し柿が、海外のサイトで販売されているとして注意を呼びかけている。

商標とっていても海外では…

福岡県は、2012年に『秋王』の商標を登録。ブランド化のため加工品などでも商標を取得していて『秋王』の名称を使った商品の販売には県の承認が必要となる。しかし、海外では、農産物の模倣商品が出回るスピードや画像の流用、商品の真偽確認の難しさなど、実務面では、対応が追いつかないのが実情だ。

福岡県園芸振興課の井上直子さんは、「これまで県が、『干し柿』または『中国』などで『秋王』の商標利用を許諾した例はない。今後引き続き、『秋王』が使われているかどうか確認を進めていきたい」と話すが、ネット上にはびこる農産物の“ブランド偽装”を完全に阻止することは至難の業だ。

『食べると実に体に良く、熱を冷まし喉を潤し咳を鎮めてくれます。父も毎日2個食べて長年の咳が和らいだほど』。『秋王』のブランドを悪用した疑いがあるニセ広告だ。生産者である『いのうえ農園』の井上さんに見てもらうと、「全然こんなの『秋王』じゃない。こういう偽物が出てくると、お客さんに迷惑かけるし、表に出して欲しくない」と憤りを露わにした。

日本の農産物ブランドは、海外でも高品質で知られているため、名前だけを利用して高値で売る不正業者が後を絶たないが、長年、生産者や行政が苦労して築き上げた安心・安全で美味しい、日本の商品の信頼性を守るため、登録だけでなく、監視体制や摘発支援の仕組みを充実させる必要がある。そして、正規品と偽物を見分けるポイントなど、消費者に対する啓発活動も今後、更に必要となる。

(テレビ西日本)

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