日本で年間およそ15万人が発症するともいわれる「椎間板ヘルニア」、その治療法として注目されているのが「切らない手術」です。全国から患者が訪れる愛知県の病院で治療の最前線を取材しました。
■悩める患者が全国から…ヘルニア治療のスペシャリスト
日本人の4人に1人が悩むといわれる“国民病”腰痛、多くの人が悩みを抱えています。
20代女性:
「いま痛いです。ずっと立っているんで仕事で」
50代女性:
「家事でちょっと頑張った時、次の日に出ます」
腰痛の要因の1つと指摘されているのが、スマホの普及などによる姿勢の悪化です。さらに、定年年齢の引き上げなどによる、労働者の高齢化も指摘されています。
愛知労働局の担当者:
「愛知労働局管内で業務上疾病の中で6~7割程度が災害性腰痛、労働者の高齢化ですね。全労働者に占める高齢者の割合も増加している」
愛知県犬山市にある「あいちせぼね病院」には、全国から腰痛に悩む患者がやってきます。
伊藤全哉院長は年間400件ほどの手術を行う、ヘルニア治療のスペシャリストです。この日診察を受けたのは、広島県からやってきたという60代の女性です。

女性患者:
「どこの病院に行っても写真で見ると『あなたはそれほどでもね』という感じで、でも本人はすごく痛いんですよ」
女性は2年前に、激しい尻もちをついて以来、ひどい腰の痛みに悩まされてきました。何軒もの病院で診てもらいましたが治る気配はなく、この病院を訪れたといいます。

伊藤医師:
「普通のお医者さんに行くと、『特に異常ないね』となるが、骨と骨の間にある椎間板というクッションが、『癒着』と言いまして、神経とくっついてしまっていて」
通常の椎間板ヘルニアは、背骨の椎間板が飛び出し、神経を圧迫することで、痛みを引き起こします。
この女性の場合、ヘルニア自体は小さいものの、神経に『癒着』していました。

そのため、激しい痛みが生じていたのです。
■”日帰り”も可能に…負担が少ない「切らない手術」
治療のため、伊藤院長が選んだのが、最新の『切らない手術』です。
従来の椎間板ヘルニアの手術は、全身麻酔をした後、背中を切開し神経を圧迫するヘルニアを取り除きますが、体への負担が大きく、場合によっては長期間の入院が必要となります。
「あいちせぼね病院」は、国内で初めて「SELD(セルド)手術」を導入しました。直径わずか3ミリの細い管を使って行う『切らない手術』で、体への負担も少なく、すぐに退院することができます。

手術は、従来とは異なり局所麻酔で行います。麻酔をした後、レントゲン映像を見ながら管を入れる位置を決定します。
伊藤医師:
「内視鏡の大元になる『カテ』という管を入れていきますね。直径1ミリの内視鏡なんですけど(カテーテルに)沿わせて入れて神経の周りを見にいきます」
カテーテルには2種類の医療器具を通します。黒が内視鏡で、青がヘルニアを除去するレーザー装置、共に直径は1ミリほどです。

内視鏡が映した映像には、“癒着”で炎症が起こることで生じた、白っぽい綿毛のようが映っています。
神経を傷つけないように、ヘルニアと一緒にレーザーで焼いて、除去していきます。

レーザー装置を慎重に細かく動かしていくと、きれいになっていくのが分かります。
伊藤医師:
「だいぶさっきのワサワサからスッキリしたので、手術終わりますね」
開始からわずか20分ほどで、手術は終了しました。そして、患部に貼ったのは「ばんそうこう」、傷口が小さいため、縫い合わせる必要がないのです。

2年間も悩まされた、腰の痛みはどうなったのか。手術から1時間半後、痛みの影響で、満足に動かせなかった足は…。
伊藤医師:
「これいま突っ張ります?大丈夫?すごいね90度まであがるね」
女性患者:
「突っ張りはないです。いいですね」
女性患者:
「(体への)負担が少ないというのはうれしいですよね。切るんだったらやっていないと思います」

手術後、その日のうちに帰宅することも可能だといいます。
伊藤医師:
「傷が小さくなっていくので、患者さんがすぐ社会復帰できる。いっぱい感謝されるのがうれしくてやめられませんね。針の穴を通すような傷でいろいろ治せれば、みんながハッピーですので」
