高い栄養価から”海のミルク”とも呼ばれている「カキ」。

これから本格的なシーズンを迎えるはずでしたが、兵庫県の海では深刻な事態が発生しています。

カキ養殖場で養殖カキのおよそ8割が死滅し、専門家は「地球温暖化も影響のひとつ」と警鐘を鳴らしています。背景には海水温と塩分濃度の上昇があるとみられています。

■カキ好きが集まる店…地元産カキが入荷できない状況に戸惑い

カキ好きが集まる店を訪れると、平日にも関わらず大にぎわい!

しかし、店の大将はある不安を口にします。

【カイノクチ 西崎憲一大将】「(兵庫県産のカキは)10月の中旬に出ますよという話を聞いていたけど、解禁にならず、『身が小さい、数が揃わない』ということでずれ込んだ。(お客さんには)『ごめん待って、まだ出てないねん』と」

店の看板メニュー地元・兵庫県産の多くのカキが入荷できない状況…今は北海道産など別エリアのカキに頼っているということです。

■「口が開いちゃってる。80%ぐらい死んじゃってる」

【竹内水産 竹内大騎さん】「全部口が開いちゃってるんですよ。これも死んでます。これも死んでます。大半が死んじゃってるんですよね」

兵庫県相生市で最大規模の養殖場を持つ「竹内水産」の竹内大騎さんは、引き上げたカキを見せながら不安を隠せない様子でした。

記者が「何割ぐらいが死んでる?」と尋ねると、「このいかだは、ちょっと厳しそうやな。8割…」と竹内卓也社長。

竹内大騎さんも「そうやね、80%ぐらい死んじゃってるイメージです」と答えます。

竹内水産がカキの養殖に携わって47年。「初めての経験」だという異変が起きているのです。

■生き残ったカキにも異変 水っぽく身が肥えていない

さらに、生き残ったカキにも”異変”が及んでいました。

【竹内水産 竹内大騎さん】「まだまだ小さいです。もっと白かったり、いい感じの色になるんですよ。これ水っぽいんですよ。身が肥えてない」

竹内さんによると、生きているカキの中でも出荷できるレベルに成長しているのは、わずか1割ほど。「損害は計り知れない」と不安を隠せません。

こうした事態に兵庫県も対応を急いでいて、近く業者を支援するため、補正予算を審議するということです。

「カキ業者への支援と同時に、観光のPRサポートをトータルで支援できるように検討している」と兵庫県の斎藤元彦知事は述べています。

■「連携とって経営を支えていきたい」鈴木農水大臣が広島県を視察

この”異変”に頭を抱えているのは、兵庫県だけではありません。

日本最多の生産量を誇る広島県でも、同じようにカキの死滅が相次いで確認されています。

この事態を重くみた鈴木憲和農林水産相は11月19日、現地を視察しました。

「何年前にこういうひどい状況があった?」と鈴木農水相が尋ねると、広島のカキ養殖業者は「ないですね。二十数年で初めて」と答えました。

鈴木農水相はカキ業者と意見交換し、原因の研究と調査をするとした上で、「国・県・市がしっかり連携をとって、全体として経営を支えていけるようにしていきたい」と述ます。

■海ではいま…海水温下がらず、塩分濃度が高い状態

瀬戸内海沿岸でいま、何が起きているのか。

気候変動の海への影響を研究する専門家は、「地球温暖化も影響のひとつだ」と指摘します。

「やはり一番大きいのは水温だと思います。これまでに比べて、広島だと2度ぐらい高くなっている」と水産研究・教育機構 水産資源研究所の小埜恒夫さんは説明します。

さらにことしは「去年に比べると相対的に雨が少なくて、川からの流入量が少ないので、そういったことで、(海水が)冷やされなかった可能性はあります。(雨が少ないと)塩分も高まっているはずです」と続けます。

海の変化がカキに与える影響について、複数の専門家によると…。

カキは毎年、水温が高い6月から8月ごろに産卵し、水温が下がると産卵を終え、身を大きくしていくということですが…ことしは降水量が少なかったことなどから、水温が下がらずカキが産卵を続けて疲弊。

また海水の塩分が雨で薄まらず、塩分濃度が高い状態が続いたため、死滅したり生育が遅れたりしたということです。

■「祈りに近い期待」生産者は売り上げの大幅減にため息

待ったなしの危機的状況に生産者の竹内さんは…。

直売所の入り口には「カキ販売はまだしておりません。もうしばらくお待ちください」という張り紙がありました。

「この時期になると、お客さんも『カキ売ってますか?』って来られるので、やってないんで…」と竹内大騎さんは説明します。

今シーズンは売り上げの大幅減が免れないだけに、ため息をこぼしています。

「なんとかひと冬を越せそう?」という問いに、竹内卓也社長は「どうなんやろ?何とかするしかないわな」と答え、竹内大騎さんは「なんとかできればなっていう感じですね」と続けます。

「生き残ってるカキに期待するしかないな」という社長の言葉に、大騎さんは「祈りに近い期待だな」と返しました。

■消費者にできることは「食べて応援」

小さなカキが私たちに訴える海の”異変”。一刻も早い対応が求められています。

そして、私たち消費者にもできる支援があります。

通販サイト「食べチョク」が11月初めに始めた生産者を支援するプロジェクトです。こちらからカキを購入することで、生産者に寄付することができます。

「地球温暖化の熱というのは真っ先に海に影響してくる」と弁護士の西脇享輔さんは指摘します。

「海水温が上がっていくことが、気候や非常に暑い夏にも影響してるのではないかとも言われている。そうすると色々な温暖化の影響というのを、海が全部受け止めていて、その悲鳴の現れがカキにも影響してるのかもしれません」と続けました。

皆さんもぜひ、食べて応援してみてはいかがでしょうか。

(関西テレビ「newsランナー」2025年11月19日放送)

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