年々患者数が増えている慢性腎臓病についてです。

慢性腎臓病は、国内の患者数が約2千万人で、成人の5人に1人と言われています。
現状や課題、また新たな治療についてお伝えします。

東北医科薬科大学・若林病院。
仙台市を中心に近郊からも患者を受け入れています。

透析病床はおよそ30。
週に6日、午前と午後フル稼働で人工透析を行なっています。

人工透析が必要な人は年々増加傾向です。
2019年には34万人を超え、それ以降高止まりが続いています。
増加の要因を専門医は次のように分析します。

東北医科薬科大学若林病院腎臓内科 石山勝也科長
「20年ほど前までは、慢性腎炎という腎臓病が原因で透析になる方が多かったが、最近は糖尿病や高血圧といった生活習慣病の患者さんが増えるにつれ、それが原因で腎不全になる方が増えています。さらに最近だと高齢化に伴って加齢で腎臓が悪くなる方も増えているのが現状。」

9割以上の透析患者が行う「血液透析」の場合、一度治療を始めると、一般的に2日に1度、1回4時間の透析が必要となります。
患者にとっては心身共に大きな負担ですが、透析治療は腎機能を回復する治療ではありません。

東北医科薬科大学若林病院腎臓内科 石山勝也科長
「人工透析は、悪くなった腎臓の代わりの働きをする治療法なので、腎臓の働きが回復しない限り、そのままずっと続ける必要が出てくる。」

根本的な治療法は現時点では一つしかありません。

東北医科薬科大学若林病院腎臓内科 石山勝也科長
「現状では腎臓移植がその方法になります。(それ以外は)基本的には難しいですね。」

大崎市岩出山の書道家・加納雅弘さんは、51年前に腎臓移植を受けました。
3歳の時に、腎臓の障がいにより血液中のたんぱくが尿に多量に出てしまう「ネフローゼ症候群」を発症しました。

腎機能の低下が進み、20才になると、医者から、「移植をしないと生きられない」と言われたそうです。

加納雅弘さん
「高校野球をしていた頃にはものすごく悪い状態でいたことは間違いない。どうしても野球をしたかったから、早稲田を受験して。最初の数か月でついていけなくて。グラウンドに倒れて。その時は、とにかく頭が痛い。毎日吐く、鼻血も出る。ふらつくという状況が長くて。」

腎臓を提供したのは、母親のミネ子さんでした。
加納さんを妊娠した時に尿毒症で腎臓を悪くしていたというミネ子さん。
移植には問題ありませんでしたが、加納さんは母の体調を考え、移植を受けるか悩んだそうです。
ただ、母親の決意は固かったと振り返ります。

加納雅弘さん
「だって、母親だもの。それが普通でしょうって。」

移植で腎機能を回復した加納さんは、食事や運動など制限のない日常生活を送ることができています。

加納雅弘さん
「普通の方と同じようにやっていける。病人だからという感覚を忘れていける。そこが一番です。」

しかし、加納さんのように移植に至るケースは多くありません。
日本臓器移植ネットワークによりますと、今年10月末時点で腎移植の待機者は1万4965人。
一方、昨年度1年間で移植された数は239。
平均の待機年数は14年9か月と言われてます。


そんな中、透析治療が必要となる前に腎機能を改善させる研究も進んでいます。

東北大学大学院医工学研究科の阿部高明教授の研究グループは、今年、世界で初めて腸内環境が腎機能に影響を与えることを解明しました。

研究グループはマウスでの実験を行い腎機能が悪化すると、腸内環境が悪化し、便秘が発生すること、また便秘が発生し、腸内環境が悪化すると腎臓が炎症や線維化をおこし腎不全を引き起こすこと。
つまり腎機能と腸内環境が、相互に作用しあうことを証明しました。

そのうえで、便秘治療薬の「ルビプロストン」を便秘症状のない腎機能の低下した患者に投与すると、腸内環境が整えられ腎機能の改善が見られたということです。

現在、この治療薬は医学的な診断基準となる便秘の患者にのみ処方されますが、今回の研究を基に今後、腎機能改善の治療薬としても活用が期待されるということです。

東北大学大学院医工学研究科 阿部高明教授
「一部の糖尿病の薬が腎臓によいということがわかって、糖尿病でなくても腎臓病の患者さんに対して投与が最近行われていて、効果も見られていますが、それでも全ての患者さんを解決するわけではないので、新たな治療が求められています。腎機能を良くする薬を、下剤という全く新しい観点から見出した、人で証明した、というのは意義深いかと思います。」

阿部教授の研究グループは、今後2~3年臨床試験を行い、国に承認を求めていくということです。


腎臓移植が難しい現状、新たな治療薬の開発はこの病にとって大きな意味を持つ研究と言えそうです。
一方で専門医によりますと、腎臓病は自覚症状がなく進んでいくことがほとんどだと言います。

検査で腎機能の低下を指摘されたり尿検査で指摘を受けた場合には、すぐに医療機関を受診し、早期発見・早期治療をすることが最も大切ということです。

仙台放送
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