子どもたちの習い事として長い歴史を持つそろばん。デジタル化が進む現代でも、その人気は衰えることを知らない。学研総合研究所の小学生白書によると、2024年の習い事ランキングで6位に入り、過去10年では最高3位を記録している。そろばんによって計算力だけでなく、記憶力や集中力、さらには向上心も育つという。

60年の歴史を誇る教室に通う子どもたち

鹿児島県日置市の伊集院小学校近くにある「ふくだそろばん2066」。約60年の歴史を持つこの教室には、週3回、小中学生合わせて約60人が通っている。

60人の生徒が通う「ふくだそろばん2066」
60人の生徒が通う「ふくだそろばん2066」
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「お姉ちゃんがそろばんをやっていて、一緒にやりたいと(始めた)」と話すのは伊集院小学校の日田真唯子さん。また伊集院中学2年の上久保陽菜さんは「計算が速くなりたいと思ったことと、友達がやっていて入りたいと思った」と始めたきっかけを語る。

子どもたちはそろばんの効果を実感している。「自分の頭で計算できて、学校の算数の授業でもスラスラ計算が解けること」と日田さんは言う。伊集院小学校6年の内野淳平さんは「計算とか集中力とか姿勢とか」と、複数の効果を挙げた。

伊集院小学校5年 日田真唯子さん
伊集院小学校5年 日田真唯子さん

記憶力を高めるフラッシュ暗算

講師の福田剛さんは計算能力にとどまらず、記憶力の向上を強調する。「そろばん教室での暗算はブレがないようにしっかり記憶できるようにという訓練を日々繰り返しているので、記憶力が高まる」と福田さんは話す。

記憶力向上に効果的なのが「フラッシュ暗算」だ。一定時間に表示される複数の数字を足し合わせ、答えを出す。伊集院小学校6年の菊永琉樹さんは「3桁の文字を頭の中で(そろばんの玉を)弾いてそれをどんどん足していく」と説明する。

頭の中のそろばんで、モニターに表示される3桁の数字を弾いて足していくという
頭の中のそろばんで、モニターに表示される3桁の数字を弾いて足していくという

この教室の卒業生で現在指導員を務める森山一希さんは、2025年8月の全九州珠算選手権個人総合で県勢初の優勝という快挙を成し遂げた。「たくさん練習して段位を取得したり、大会で結果を残すことで向上心や集中力が身に付いた」と語る。

森山さんはフラッシュ暗算で、1.6秒間に出る3桁の数字15個の足し算に挑戦。周囲の子どもたちから「ウォー!」と歓声が上がるほどの実力を見せた。「自分がやっていることに無駄なことは一つもないと思っているので、(子どもたちには)諦めない心を学んでほしい」と森山さんは話す。

増える未就学児のそろばん学習

鹿児島市の「若木そろばんあんざん教室」では、小中学生だけでなく幼稚園児の姿も。5歳の玉城灯梨ちゃんは、小学3年生で習う2桁の掛け算を暗算でこなしている。

幼稚園児も通う「若木そろばんあんざん教室」
幼稚園児も通う「若木そろばんあんざん教室」

全国珠算教育連盟によると、全国的にそろばんを習う未就学児が増加しているという。教室を運営する若木康広さんは「脳が柔らかいうちにそろばんを頭にイメージできれば、驚異的な暗算力を発揮できる」とそのメリットを説明する。

灯梨ちゃんは3歳の時からそろばんを始めた。小学1年生の姉・綾華さんは2024年に幼稚園児として初めて全国大会に出場した。綾華さんは灯梨ちゃんの目標でもある。

姉妹の競争心も学習意欲を高める。母親の智帆さんは「お姉ちゃんが勝つか、妹が勝つかという決勝戦があり、(灯梨ちゃんは)負けたことがわかると会場に響き渡る声で泣き叫んだ」と振り返る。「勝ちたい」と言う灯梨ちゃんは「たくさん練習する」と意気込む。

智帆さんは「そろばんを通して、負けたくない(気持ちを持ち)、これだけが自分の強みだというものを持つことは大事だと思う」と語る。

デジタル時代にも根強い人気を誇るそろばん。計算力や記憶力を磨くだけでなく、自分自身と向き合うための手段としても確かな存在感を放っている。

(動画で見る:フラッシュ暗算が生む記憶力 そろばん教室の挑戦と成長

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