焦点は景気ではなく年金だった
この記事の画像(4枚)参院選は自民57議席で、まあそこそこの勝利、といったところか。
事前の世論調査で1つ気になったのが有権者は争点が「景気」でなく「年金」だと考えていたこと。安倍首相は10月に消費税を上げると明言しているのに有権者は景気より年金を心配しているということなのか。
背景には例の金融庁の老後2000万円不足問題があるのだろう。年金だけで暮らしていけないのではないかという不安である。しかしあの報告書を注意深く読むと、2000万円不足するどころか300万円余ってしまうという事実に気がつく。
つまり65歳の夫と60歳の妻が年金以外の収入がない場合、90歳位まで生きると「平均」して2000万円足りなくなる、と報告書には書いてある。でも総務省の家計調査によると、60代夫婦の「平均」貯蓄額は2300万円なのだ。差し引き300万円の黒字。金融庁はこの数字も報告書に入れるべきだったと思う。
「平均」が実態を必ずしも表していないことは承知している。例えば僕の場合、まもなく還暦で会社を定年し、5年後には厚生年金の受給が始まるが、娘はまだ5歳でこれから教育資金が必要。当然定年後も何らかの形で働くことになる。健康なら娘が成人するまであと15年、つまり75歳の後期高齢者になる位までは働くのではないか。
年金政策では有権者は与党を選んだ
さて一部野党は金融庁の報告書を受けて「国民が怒っているのは百年安心がウソだったことだった」と主張し、メディアも喜んで取り上げたが、これは悪質なデマであった。百年安心というのはそもそも年金財政が破綻しなくて安心ということであって、老後の生活はすべて安心という意味ではない。それでは社会主義だ。しかし社会主義国で老後が安心でないことはもう誰もが知っている。
結果を見る限り有権者は、最大争点である年金政策では野党より与党を選んだ、ということになる。確かに一部野党が公約で出している「最低保障機能」や「マクロスライドの廃止」は財源があいまい、もしくは非現実的で多くの有権者には受け入れられなかったのではないか。
はっきり言って日本の年金は負担と給付のバランスを考えると世界一よくできた制度だ。この制度を改悪するのだけは勘弁してほしい。
生活保護が年金より高いというフシギ
ただ時代とともにほころびも出ている。一つの大きな問題は貧困層の低年金問題。これは制度の根幹とは別に手当てしなければならないが、実はこれも生活保護費(ざっくり10万円)の方が国民年金(6万5千円)よりも高い、という逆転現象が起きるほど日本の生活保護が充実しているというのもまた事実なのだ。
こういうことを考えていくと、我々が心配すべきは社会保障の充実よりは、財源をどうするか、ということに気づくだろう。「2000万円足りないのはけしからん」ではなく、今の社会保障制度を維持するために何が必要なのかを政治家は正直に国民に示してほしい。