5期20年の現職を追い詰めた知事選
宮城県知事選で、現職の村井嘉浩知事と参政党・神谷宗幣代表が真正面からぶつかった。
争点は政策だけではない。SNSの拡散力と、それがもたらす“情報の歪み”である。
「相乗効果はあった」参政党が挑んだ“県知事選初参戦”
FNNの単独インタビューに応じたのは、参政党の神谷宗幣代表。
「後半につれて盛り上がりは出てきたので、和田陣営と参政党と協力してやったことがあったので、相乗効果はありましたね」
参政党が支援したのは、自民党の前参議院議員・和田政宗氏。現職・村井知事に肉薄し、あと一歩のところまで迫った。
神谷代表はこう語る。
「勢い的には勝てたと思いますね。やっぱり終盤で出口調査と違う結果が出たので、組織的な何か動きをされたんだろうなと、でもそれも含めて選挙ですから、負けは負けなので、もう勝ってもらった村井さんに頑張っていただく」

「参政党と戦っているような選挙だった」
一方、6選を果たした村井知事は、選挙後の会見でこう語った。
「参政党と戦っているような選挙だった」
知事が繰り返し問題視したのが、SNSで拡散された「デマ」だった。
街頭演説でも強い口調で訴えた。
「今回の選挙で皆さんご承知の通り、参政党関係者からSNSで誹謗中傷、デマ、本当にひどい攻撃を受けました」
選挙期間中、SNS上には村井知事の写真とともに「メガソーラー大歓迎」「外国人労働者大量受け入れ推進」といった文字を合成した画像が拡散された。
また、かつて検討したものの白紙撤回した「土葬墓地整備」をめぐっても、事実と異なる情報が広まった。
知事は「今後一切検討しません」とする動画を公開し、火消しに追われた。

「ネット攻撃」と「ネット広報」すれ違う認識
SNSでの影響について問われた村井知事は、当選後のインタビューでこう分析した。
「私が思うに若い人はテレビを見ない、新聞を見ない、SNSだけを見るという方が多いので、そういった方たちが今回の参政党のいろんな、ネットに感化されたことが大きいのではないかなと自分では思っています」
これに対し、神谷代表は真っ向から反論した。
「ネット攻撃って言っている段階で捉え方が違うなと思いますけれども、我々はネットで広報しましたので、それで若い人たちの票を集めたのは事実だと思う」
同じ“ネットの力”を、村井氏は「攻撃」と捉え、神谷氏は「広報」と位置づけた。
その認識の差こそ、今回の選挙が象徴した時代の変化でもあると言える。

発端は「水道民営化」発言
2人の因縁は、夏の参院選までさかのぼる。
神谷代表は街頭演説でこう訴えた。
「だって上下水道必要でしょ、国がやらないから宮城県みたいに民営化しちゃうわけですよ。おかしい宮城県は。水道だってめちゃくちゃ大事なわけですよ。なんでそれを外資に売るんですか、任せるんですか」
これに対し、村井知事も定例会見で強く反論した。
「おかしいよ宮城県は、という言葉を街頭演説でお話されましたけれども、その言葉、そっくりそのまま『おかしいよ参政党は』『おかしいよ神谷さん』ということを申し上げたいなというふうに思います」
県は「誤解を招く不適切な発言だ」として参政党側に抗議。火種を残したまま知事選を迎えることになった。

SNS選挙の“現場”で起きていたこと
選挙戦最終日の10月25日、神谷代表が仙台市入りすると沿道は人で埋め尽くされた。
熱狂的な支持者が詰めかける一方で、抗議のプラカードを掲げる人の姿も見られた。
参政党が参院選で見せた盛り上がりが、地方選挙にも波及した格好だ。
仙台市では、和田氏が村井氏を3万票あまり上回った。
SNS世代と既存メディア世代との間で、明確な投票傾向の差が現れた選挙でもあった。

村井知事「ファクトチェック体制を検討」神谷代表「規制より教育を」
村井知事は当選後の会見で、県としての対応を指示したと明らかにした。
「県として第三者的な立場でファクトチェックをして、問題があれば告発をする。これは県警と県の顧問弁護士も含めて、どういうふうにすればいいのかということを検討してほしいと指示した」
一方で、神谷代表は「規制ではなく説明を」と強調した。
「法的な規制をかけてとかっていうことじゃなくて、それに対しては間違っていますということをしっかりと説明をしていく、繰り返し説明するしかない。規制かけてもうまくみんな隠語とか使ってやれるので、そこは規制ではなく、真摯に説明していくということが大事なんじゃないかなと思う」
さらに、デマの拡散を防ぐにはどうすればよいかという問いに対し、こう答えた。
「教育を変えていくしかないですよね。あんまり嘘を巻き散らかして、相手を誹謗中傷するということは、正しい行いではないということですよね。嘘をついたら処罰だみたいな社会だと、しゃべれなくなっちゃいますよね」

SNSが変えた“選挙の現場”
「ネット攻撃」か「ネット広報」か。
その線引きは簡単ではない。
ただ確かなのは、SNSという新しい“選挙の主戦場”が、地方の首長選にも完全に浸透したという事実である。
情報発信の自由と責任、そしてその影響力をどう制御していくか。
宮城県知事選が突きつけたのは、民主主義そのものの問いだった。

 
       
         
         
        