福岡を代表する観光名物のひとつ、柳川の『川下り』が、いま揺れている。現在、最寄りの駅前に舟乗り場を作る工事が進んでいるが、肝心要の船頭たちから反対の声があがっているのだ。その理由を探った。

電車を降りたら そのまま舟に…

「♪おだんの生まれは柳川たんも…」と船頭の舟歌も心地良い水郷・柳川の川下り。立花藩ゆかりの城下町で、整備された『掘割』と呼ばれる水路を『どんこ舟』に乗って、ゆったりと巡る。

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実に、70年の歴史を持つとされる柳川の川下りで、いま着々と工事が進む一大プロジェクトがある。なんと最寄り駅の西鉄・柳川駅で電車を降りたら、そのまま舟に乗れるようになるというのだ。

柳川駅のすぐ傍らを流れる二ツ川に掘割を掘って120メートルほど引き込み、駅前に舟乗り場を開設する計画なのだ。鉄道の駅に直結する川下りの乗船場は全国でも稀。これまで、駅から最も近い乗船場でも歩いて5分ほどかかっていたが、改札を出たらすぐ舟に乗れるようになる。

市と県が10億円余りをかけて開発を進める事業で、これに合わせて西鉄が、飲食店などが入る施設を建設する予定になっている。

地元の人に話を聞くと「電車から降りて、もうサーッと川下りに行けるとか。駅前が賑わうといいですよね」(女性)、「まぁワクワクですね。いいですね」(女性)などと歓迎する人が多い。

地元の期待も高まる川下り舟の『駅乗り入れ』事業なのだ。

「キツイ、キツイ。無理」

一方で、反対や懸念の声をあげているのが、川下りには欠かせない船頭たちだ。

「キツイ、キツイ。私たちには無理よ。夏とかもう、熱中症になります。コースが長いからね」と船頭の1人は話す。

また御年87歳になるベテラン船頭の田中勝征さんも「西鉄駅からというと、30分、余計に漕がなければいけないですよ。それでね、私たちはもういまのままの方がマシやろと思っている」と懸念を示す。

現在、柳川駅周辺には4つの船会社の乗り場があり、終点の沖端に向かう通常コースの乗船時間はいずれも60分ほどだ。

これが駅出発となると、長いところで400メートルほど距離が伸び、その乗船時間は80~90分ほどになるという。また、延長コースとなる二ツ川は流れが速く、川幅も狭いため、流れに逆らって舟を駅前の乗り場に運ぶのにも体力を要する。

平均年齢は60歳前後と船頭の高齢化が進むなか、毎年のように続く、夏の異常な猛暑のもとでは、数百メートルの延長が、熱中症で命に関わる問題になるというのだ。

「あれぐらいの距離ならそんなに変わらないのでは?」という声もあるなか、田中さんは「簡単にね、素人の人たちは言うけど、船頭してみると、やっぱり無理になる」と溜息をつく。

長年の課題 船頭のなり手不足

船頭たちの懸念は健康面以外にもある。長年の課題となっているのが、船頭のなり手不足だ。

「船頭さんの現状とか分かっているのかなと思う。もともと200人いて、いま40人ぐらいしかいない」と窮状を訴える船頭もいるのだ。

新たにコースを設けるとなれば、さらなる人材確保が必須で、舟会社の社長は「乗船料の値上げも避けられない」と話す。

「最低500円は上げないといかんやろね。もしよければ1000円上げる。あれだけの距離は、無料で船頭さんにやれ、と言うわけにはいかんやんね」(大東エンタープライズ社長 工藤徹さん)。

また、コロナ禍以降、海外の旅行客を中心に殆どが30分程度のショートコースを選択しているなか、ニーズに逆行しているとの批判もある。

「多分、船頭よりもお客さんの方がくたびれると思うんですよね。いま、やっているのが短い30分のコースなんで、正直それぐらいでも充分だとは思います」と船頭の1人は話す。

「合意形成もないまま建設が…」

計画に反対する船頭たちからは「合意形成もないまま建設が進められている」と記された陳情書も市長宛に提出されている。

市趙宛に出された陳情書
市趙宛に出された陳情書

さらにこの問題は、2025年4月の市長選でも、争点のひとつとなった。現職の後継者で、元市職員の推進派候補に対し、新人候補の1人が「必ず赤字になる」などと工事の中止を訴えたのだ。

投票の結果、推進派の松永久さんが当選。市長になった松永久さんは「いま、川下り業者さんたちとの会議を作っていますので、そのなかで、いろんな意見を出して頂いて、皆さんがウィンウィンになるようなところを見つけていって欲しい」と話す。

市の観光協会は、2年前から、市内にある全ての川下り業者と協議を開始。これまでに全体協議を7回重ね、参入に前向きな意向を示す業者も出てきているという。

柳川市観光協会専務の松藤満也さんは「熱中症対策として中継地点を設けて、そこで休んでもらうとか、船頭さんの待遇面もしっかりよくしていきたいと思いますので、ある一定のところの料金設定はしていきたいなと思っています」と話す。

観光の目玉事業として期待がかかる、駅直結の乗船場の開業予定は2026年の秋。着々と工事が進むなか、肝心の船頭探しもこれから佳境を迎えそうだ。

(テレビ西日本)

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