瀬戸内市の国立ハンセン病療養所長島愛生園で、入所者を監禁した「監房」が土の中から掘り起こされることになりました。「人権侵害の象徴」とも言える建物が、半世紀ぶりに姿を現します。
(竹下美保 記者)
「こちらが入所者を監禁した監房です。現在は外壁の一部しか見られませんが、土を掘り出し見学のための通路も作られる予定」
10月から始まった工事。高さ3・4メートル、監房内に8つある独房の1つが姿を見せることになります。
(長島愛生園入所者自治会 中尾伸治会長)
「忌まわしいから埋めてしまえと埋めたたんだけどまたそれを掘り起こしたいなと反対に、そういうことがあったんだとみんなに見てほしい」
ハンセン病は治療法も見つかり、感染力の弱い病気にもかかわらず、国の誤った隔離政策によって患者たちは強制収容されました。
長島愛生園は、隔離のために作られた療養所で、「監房」は、95年前の開園当初から存在していたのです。頑丈なコンクリートで造られていて、これほど重厚な監房は他の療養所にはないと言われています。逃走を企てた人や園内の風紀を乱したとされる人などが、正式な裁判を経ることなく、園長の権限で監禁され懲罰を受けました。
(長島愛生園入所者自治会 中尾伸治会長)
「古い人に話を聞いたら診察に行って先生(医師・園長)の言うことを聞かなかったら、草津に行くかと言われたというから、全て高権、上からものを言われていたそんなことが監房の中にはあった」
特に罪の重い人は、冬は氷点下20度にもなる群馬県の「重監房」と呼ばれる施設に送られました。「重監房」では、全国の療養所から連れてこられた93人のうち、23人が亡くなっています。長島愛生園から重監房に4人が送られたことが記録に残っています。
(長島愛生園入所者自治会 中尾伸治会長)
「病院の中で監房というが刑務所、あれは、空き家になった時に1部屋だけのぞいたが、1人で入るもんじゃない、気色悪い、ご飯を入れる所も小さい窓だけ、罪の重い人はご飯2食、決められた水の量。」
療養所を世界遺産にしようと取り組むNPO法人が、4年前に監房の内部にカメラを入れて調査した映像です。側壁には無数の文字のような跡が確認できます。反論はもちろん、意見すら言うことができない入所者たち…
手書きのカレンダーで、監房から出られる日を指折り数えた様子がうかがえます。監房は法律の改正によって1953年に廃止されました。長島愛生園の入所者は、監房の姿を消してしまいたいと山を削った土で埋めたのです。
(長島愛生園 歴史館 田村朋久学芸課長)
「園長の、言い方は悪いがさじ加減一つで入れることも可能だった、運用面での危険性も十分にはらんでいた」
「かつての人権侵害を物語る貴重な建物なのでこれを見てもらうのはとても意義がある」
入所者にとっては、思い出したくもない過去。それでも残さなければならないわけがあるのです。
(長島愛生園入所者自治会 中尾伸治会長)
「ああいうものを作ったという、どうしても必要だったのか皆さんに知ってほしい」
工事は2026年中には完了する予定です。人権侵害の歴史を繰り返さない…。物言わぬ歴史の証言者が私たちに問いかけます。