いま各地で公立の病院が経営危機に瀕しています。全体の実に8割以上が赤字となっていて、その背景を探るとある課題が見えてきました。
静岡市・難波喬司 市長(9月2日):
市長として大変申し訳なく思っている
9月2日。
険しい表情で陳謝した静岡県静岡市の難波喬司 市長。
理由は市立清水病院をめぐる巨額の赤字です。
清水病院の2024年度の赤字額は12億2157万円。
ただ、市が10億円を補助していることから実質的な損失額は22億円余りに上ります。
総務省によると、2024年度、地方独立行政法人を含む全国844の公立病院のうち過去最大となる実に83.3%が赤字となりました。
市立清水病院・上牧務 病院長:
こちらが病院のエスカレーターで、今の時間は止めている。午前中はもちろん動かしているが、午後になると利用者が減ることがわかっており午後1時から止めている。エレベーターも右側は1日中止めている状態(Q.いずれも節電対策?)それを目的にやっている
過去19年続けて赤字となっている静岡市立清水病院。
2025年度も2024年度と同じく10億円を超える赤字は避けられない状況です。
主な要因は2つ。
それが人件費と物価の高騰です。
市立清水病院・上牧務 病院長:
もちろん米もしっかり出すので(価格高騰の)影響もある。なるべく病院としては「安く」「安く」と思うが、病院で出す食事の金額も診療報酬で決まっているので、その予算内でやるとなるとすごく大変
さらに、深刻な医師不足も経営の圧迫に拍車をかけています。
清水病院では2024年度まで脳神経外科の常勤医師が4人いましたが、2025年度からわずか1人に。
これにより現在は手術の受け入れを止めていて、患者が減少したことで脳神経外科単体の収入は約5億円減りました。
市立清水病院脳神経外科・福地正仁 医師:
去年までの入院患者と比べると患者1人あたりの単価がどうしてもかなり低い。入院収益がかなり減っているという意味では病院の赤字に悪い意味で貢献してしまっている
こうした中、過去5年連続で黒字となっている公立病院が兵庫県にあるたつの市民病院です。
理事長も兼任する大井克之 院長は地方独立行政法人化したことがターニングポイントになったと振り返ります。
たつの市民病院・大井克之 理事長兼病院長:
病院の運営で「こうしなくては」と思った時はすぐに変更できる。「だめだな」と思ったら「では、今度はこうしよう」と迅速に対応できる部分は地方独立行政法人化のメリット
地方独立行政法人とは公共性の高い事業やサービスを行政から切り離して、効率的かつ専門的に行うため都道府県や市町村が設立した法人で、たつの市民病院では5年前に運営を移行しました。
通常、自治体が直轄で運営する病院の場合、高額医療機器の購入などには議会の承認が必要ですが、地方独立行政法人の運営であれば独自の判断で可能となります。
また、メリットは人事面でも…
たつの市民病院・大井克之 理事長兼病院長:
(直轄運営の場合)市役所の庁舎内で働いていた職員が市の人事異動という形で病院の例えば総務課や、その他の課に異動してくる。逆に数年経ったらまた市役所に戻るというようなことが繰り返されてきた。それに比べて地方独立行政法人になると、法人事務局の職員は基本的には変わらないし市へ異動になることもないので、表現が適切かわからないが、本腰を入れて経営の改善に取り組むことができる
市立清水病院 病院経営企画課・鈴木課長:
さらなる経営改善が必要ではないかということで、みなさんにさらなる経営改善の取り組み内容をあげてもらった
このため、清水病院でも独立行政法人化を視野に検討を重ねていますが、法人化するためには赤字を解消する必要がある一方、救命救急や小児科、産婦人科などは不採算部門でありながらも地域医療を支えるために診療を縮小するわけにはいきません。
市立清水病院・上牧務 病院長:
物価高になるとそれに追いついていかず、国の制度の問題だと思うが診療報酬を実態に合わせて変化させてほしい
たつの市民病院・大井克之 理事長兼病院長:
いまのたつの市民病院よりももっと大きな規模の病院、医師が100人、150人いるような病院で理事長や病院長を引き受けてもおそらく黒字化できない。診療報酬が安すぎると思う
高市早苗 首相(10月21日):
私たちの安心・安全に関わる大切なインフラが失われるかもしれない。いま手をつけなければ間に合わない
10月21日、診療報酬の見直しを前倒しで行う考えを示した高市首相。
ただ、清水病院は監査委員から経営課題に対するマネジメント体制が極めて脆弱と指摘されているだけに自助努力も求められていることは言うまでもありません。