岩手県花巻市に、教員をやめて福祉の世界に飛び込んだ男性がいます。
重い障がいがある妹、そして亡き母への思い。新たなスタートを切った男性の取組と思いを取材しました。

花巻市で暮らす上野洋介さん、40歳。
4つ年下の妹・花さん(36)は脳に障がいがあり、歩いたり話をしたりすることはできません。

上野さんは「まだまだ障がいがある方とか、その家族の生活は見えてない部分が多い」と話します。

悶々とした思いを抱えてきた上野さんは、2025年、教員をやめ福祉の世界に飛び込みました。

上野さんは3人きょうだいの長男。家族でいる時、花さんの障がいを意識することはあまりありませんでした。

上野洋介さん
「家でピアノの練習をしていると、母が車いすで花ちゃんを押してきて、『練習聞かせてちょうだい』って言って。弾いてる斜め後ろに花ちゃんがいて、時折声も『あー』って出してくれるんで聞いててくれてるみたいな」

小学生の頃、花さんの障がいを強く意識する出来事がありました。
母と妹の3人で外出した時のことです。

上野洋介さん
「3人で芝生の所を歩いていたんですね、車いすで母が押していて。そしたらどこからか小さい女の子が寄ってきて、花ちゃんのことを見て『何だか死んでるみたい』って言うんですね」

その言葉を聞いても、何も言い返せない花さん。
母・裕子さんは、少女に悪気がないことを分かりながらも、湧き上がる感情を抑えられませんでした。

上野さんは「その時に母がものすごい剣幕でその女の子に『あんたなんかより一生懸命生きているんだからね』と、すごくまくしたてたのが印象に残っている」と当時を振り返ります。

花さんの人となりが分かれば、世の中の目も変わるのではないか。裕子さんは、地域の人たちを自宅に招き交流をするようになりました。
上野さんはそんな母の姿を見て育ちました。

花さんに愛情を注ぎ続けた裕子さんは、8年前、ガンを患い他界。花さんの世話は、父・秀雄さんがひとりでするようになりました。

「週末帰るんですよ、2人でいるわけですよね。ご飯のお世話とか抱っことか、父ひとりでやっているわけで、このままでは良くないよなと思ったのが最初。色々考えて調べ出すと同じような境遇の方がいることも分かってきて」と話す上野さん。

妹の将来に加え、同じ悩みを抱える人たちの役に立ちたい。
上野さんは悩んだ末、教員を辞め福祉の道に進むことを決めました。6歳と2歳の子どもがいる中での再出発でした。

退職から半年となる9月、ヘルパーステーションを開業しました。
身の回りの世話をするヘルパーを各家庭に派遣し、自宅での生活を支える体制を整えました。

父・秀雄さんは洋介さんについて、「花への思いが私が考えている以上にあった」と話します。

その活動は、地域で同じ悩みを持つ人たちを勇気づけています。

障がいがある子を持つ母親
「極限まで親が見て、どうしようもなくなったら施設に入所するしかない。家で暮らすことができるかもしれないとか、希望が見えたことが一番大きい」

上野さんは亡き母の思いも受け継いでいます。
この日は、月に1度の交流会です。障がいがある人たちや福祉に関心がある若者を自宅に招き入れました。
音楽を楽しみながらお互いを知り心通わせます。人と人との繋がりの先に、理想の未来を見つめます。

上野さんは「外に開いていくことで、そういう人たちに優しい、地域全体が1人1人が生きやすい、1人1人に優しい社会につなげていきたい」と思いを語りました。

岩手めんこいテレビ
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