世界最高峰のエベレストをはじめ、世界にある8000メートル峰14座のうち8座を占めるネパール。巨大なヒマラヤ連峰を目指して世界中からクライマーが訪れています。そんなクライマーの挑戦をサポートするのが、シェルパです。シェルパはネパールの総人口の0.5%ほどの少数民族であると同時に、ヒマラヤ登山の山岳ガイドを指す言葉です。
そんなシェルパの1人が自分がガイドを担当した県内の男性を訪ねてやってきました。福井の登山者とも広がる交流の様子を追いました。
9月26日、福井駅には登山ガイドの脇本浩嗣さんの姿がありました。
脇本さんは去年、ヒマラヤの名峰アマ・ダブラムを登頂。標高6800メートルを越え、酸素濃度は平地の半分以下、マイナス20度の極寒と強風が吹きつける極限の世界を体験しました。
この20日にわたる挑戦を側で励まし支えてくれたガイドが、脇本さんを訪ねて福井にやってくるのです。
「また帰ってきました。よろしくお願いします。」
脇本さんを訪ねてきたのは、フルテンバ・シェルパさん(38)。ネパールのシェルパ族で山岳ガイドを務めるシェルパです。
登る山の標高によって必要とされるガイド資格が異なりますが、フルテンバさんは8000メートル峰まで案内できるクライミングガイドを取得しています。これまで、エベレスト、マカルー、マナスルなどの8000メートル峰をはじめ、数多くの山々へ世界中のクライマーを登頂させている登山のプロフェッショナルです。
ネパール東部の標高2600メートルに位置するソルクンプ村に生まれ、中学生の頃から山の仕事に携わり2017年に登山専門の旅行会社を設立。ヒマラヤ登山のシーズンは、乾季の3月から5月と10月から12月の約半年間。フルテンバさんはオフシーズンを利用してガイドとして関わった人にフォローアップなどを兼ねて会いに行きます。
極度の緊張をもたらす高山で共にガイドである脇本さんとは、連携を深めていました。
脇本さんは、フルテンバさんにぜひ見せたいと思っていた場所に案内しました。大野市の百名山、荒島岳です。
脇本さん:「ここは桜坂。登山道沿いに桜並木が続くんですよ」
フルテンバさん:「たくさん花が咲いてきれいでしょうね」
咲いている萩の花を見たフルテンバさんは「(ヒマラヤ山脈の上で)こんな緑は見れない。きれい」と感激した様子。
脇本さん:「フルテンバさんがヒマラヤでガイドするコースはどんな道が多い?」
フルテンバさん:「いろんなコースがあり大変な道もあるし、こういう楽な道もある」
脇本さん:「フルテンバさんが好きなのはどんな道?」
フルテンバさん:「私が好きなのは、こういう楽な道。すごいいいペースですね。屈強のガイド」
脇本さん:「ありがとうございます。ほめていただいて」
フルテンバさんは、なぜシェルパになったのか。そのきっかけとなる幼少期のエピソードを話し始めました。
フルテンバさん:
「朝のウシのエサやりや世話の後、学校まで30分かかって通学するので、毎日遅刻していた」
ウシの世話で、勉強も自分の時間もとれない日々が苦痛となり、14歳の時、両親に何も言わず兄の住む首都カトマンズへ引っ越しを決心したそう。
「(両親は)最初はどこに行っているかわからないから心配していた。カトマンズは一週間歩いて行かないといけないので、冒険だったね」(フルテンバさん)
中学生の頃から山の仕事に携わり、シェルパの道へ。8000メートル峰まで案内できる
クライミングガイドの資格を取得しています。
標高の高い山をガイドする時には、テントや酸素ボンベ、食料などをキャンプ地へ運ぶため平均40キロの荷物を担いだ登山が求められます。
高地の生活に適した強靭な身体能力と優れた登山技術を兼ね備えたシェルパ。荒島岳を軽い足取りでスイスイと登っていきます。
山頂に到着すると、残念ながら天気が悪く景色は見えませんでしたが…「ありがとうございました。感動。気持ちがよかった」とフルテンバさん。
9月28日には、2人は福井市内でヒマラヤに興味のある人を対象にした講演会に講師として呼ばれ、美しい自然や現地の情報などその魅力を伝えました。
来場した人は「これまで見聞きする機会がなかったが、少し訓練をすれば行けるという感じになった」「ものすごく勉強になったし、これを機にいろんな山にチャレンジしたい」などと関心を高めた様子。
ヒマラヤを目指している人たちの後押しとなったようです。
「友達から友達のつながりで、新しい登山客を増やしていきたい」とフルテンバさん。脇本さんが「ヒマラヤの山や自然の魅力を色んな人に知ってほしい。日本からヒマラヤを登る登山者に日本にも荒島岳があるとPRしてもらえますか」と尋ねると「もちろんです」と笑顔を見せました。
山がつないだ2人の友情。ネパールと福井のネットワークが県内に根付き始めています。