高齢ドライバーに典型的な踏み間違い事故

9月29日、仙台市宮城野区で小学校の敷地に乗用車が突っ込む事故が発生。
乗用車は20センチほどの段差を乗り越え、フェンスを突き破っていた。
車を運転していたのは高齢者。「ブレーキとアクセルを踏み間違えた」と話していたという。

ブレーキとアクセルの踏み間違いによる事故は、全国的にも、宮城県内でも毎年一定数発生している。
この10年で平均すると、全国では毎年約3900件、宮城県内では毎年約72件。
このうち65歳以上が起こしたケースは3分の1以上を占め、公益財団法人交通事故総合分析センターは「高齢ドライバーに特徴的な事故形態の一つ」と分析している。
宮城県警によると、2025年も9月末までに26件発生。そのうち17件が65歳以上の運転だった。
講習で見える高齢者の課題

この日、仙台市宮城野区の自動車学校で行われていたのは、70歳以上の人が運転免許を更新する際に義務付けられている、高齢ドライバーの講習。
参加していた二人は、踏み間違いをしたことや、しそうになった経験はないという一方で、自身の衰えを感じていた。
講習に参加した女性(70):
雨の時、暗くなった時の視野が狭くなったと思う
講習に参加した男性(72):
視野が狭くなった。細い道を走るのが怖くなった。

座学で講習を受けた後、教習所のコースを運転する。
参加者のひとりは、一時停止の標識がある交差点にさしかかった際、停止線で止まれず、普段左ハンドルの車に乗っているということもあってか、左折時にセンターラインをはみ出してしまった。

一方で、アクセルとブレーキの素早い踏み変えが必要な段差の乗り上げでは、停止位置にしっかり止まることができていた。
踏み間違いによる事故で、障害物に衝突するまで止まることができないケースがあるが、これはとっさの判断でブレーキを踏むことができないからだと、高齢者講習を担当した講師は話す。
つまり、今回の講習のように、あらかじめアクセルとブレーキを踏みかえることを想定した場面と、実際の踏み間違いでは条件が違ってくるということになる。
踏み間違いによる事故の典型的パターン
交通事故総合分析センターは、踏み間違いの典型的なパターンをいくつか指摘する。

例えば、駐車スペースに入ろうとバックした後、位置を調整するため前進するケース。

また、バックして車の位置を調整してから、前向きに駐車しようとした場合。
どちらも限られたスペースの中でハンドルを切り返し、ペダルの踏みかえが増えるために急発進になりがちだという。
仙台中央自動車学校 講習講師 千葉幸彦さん:
踏み間違えによる事故にはいろいろなパターンがある。単純に間違える場合、気が動転した場合。
高齢者講習を担当する講師は、高齢者の踏み間違えの要因について、このように指摘する。
そして、パニックになると、車の運転の中で一番長くとっている行動、つまり、ハンドルを握りアクセルを踏む行動をとってしまうという。
仙台中央自動車学校 講習講師 千葉幸彦さん:
パニックになった瞬間、自然とアクセルに足をかけてしまう
高齢に由来する姿勢の変化も踏み間違いの要因

年齢を重ねることで生じる身体的な変化も、踏み間違いにつながるという。
仙台中央自動車学校 講習講師 千葉幸彦さん:
高齢になってくると、腰が曲がってきてがに股が顕著に表れるようになる。アクセルを踏む分にはがに股でも対応できるが、ブレーキは通常、足をまっすぐかける。パニックになると、自然と自分の体型のがに股のまま踏んでしまう。自分はブレーキを踏んでいるつもりでも、慌ててしまっているのでそのままアクセルのほうに足が行って、アクセルを踏み続ける
事故を防止するためには、まず、基本的な運転姿勢で運転することが大切だということだ。
複数の要因が絡み合う高齢者の事故

脳科学の見地から高齢者の事故を分析する、東北大学の瀧靖之教授はこう語る。
東北大学加齢医学研究所 瀧靖之教授:
考えたり判断したり記憶したりする力は高齢者になればなるほど衰えていく。
何かをとっさに判断する、判断して実行する、このような認知機能が加齢によって落ちていくために、踏み間違いが起きる
一方で、高齢者の事故は認知機能だけではない、様々な要因が絡み合っているという。
東北大学加齢医学研究所 瀧靖之教授:
認知機能、心理的な問題、さらには運動機能、この3つが合わさることで高齢者のアクセル・ブレーキの踏み間違いが起きると考えられる。1つの原因ではなく、複雑な原因、それぞれが加齢によって機能が低下し、結果として踏み間違いのリスクが高くなっている
また、運転に対するストレスが認知機能に影響している可能性も指摘する。
東北大学加齢医学研究所 瀧靖之教授:
運転そのものに対するストレスが多かれ少なかれある。これが認知機能に影響を与えて判断を鈍らせる。ストレスが認知機能全般を下げる可能性がある
事故を防ぐために できる対策は?

さらに、筋肉量や関節の可動域の低下も運転の衰えにつながる。
脳や体の機能を維持して事故のリスクを下げるためには、普段の運動や睡眠が大切だと話す。
東北大学加齢医学研究所 瀧靖之教授:
普段の歩くスピードをちょっと早くする、エスカレーターを使うところで階段を使うといった、無理のない生活習慣の中で筋肉を使う機会を増やしていく。
そして睡眠をしっかりとることが重要。睡眠不足では判断力が落ちるので、無理な運転は控える
つまり、脳や身体の機能を維持し、健康な状態で運転するという、非常にシンプルな対策に尽きるということだ。
実際の運転技術としては、ハンドルや足の位置など、基本通りの正しい運転姿勢を取ることが有効だ。
また、オートマチック車の場合は、アクセルを踏まずに自然と進むクリープ現象を利用するのも、踏み間違い防止には効果的だという。
自分が加害者にも被害者にもならないように。
免許の返納だけでない、すぐにでもできる対策を実践することが、踏み間違いなどの事故を未然に防ぐことにつながる。
仙台放送