彼女の詳しい出自について、朝ドラの主人公モデルとなってからは多くの書物やウェブサイトで紹介されているので、ここでは省く。

養母トミは出雲大社の神官の娘で出雲神話や昔話に詳しく、セツにも子守唄がわりに夜な夜な語って聞かせた。

「昔の話をしてごしない」

それがセツのツボにもハマり、よくそう言って昔話をせがむようになる。ストーリーテラーの才能は、どうやら、彼女から受け継いだようだった。

松江城。八雲はこの城にまつわる「人柱」の怪談を記している
松江城。八雲はこの城にまつわる「人柱」の怪談を記している

成長してからは読書が好きになり、本に書かれた昔話にも熱中した。多くの士族たちと同様に、養父の稲垣金十郎も没落して一家は生活に困窮するようになる。セツは本に書かれている維新以前の昔の話に没頭し、士族たちが幸福だった時代を空想した。

苦しい現実に背を向け、本の世界に逃げ場を求めていたのだろう。不幸を糧にして養母から受け継いだ才能はさらに大きく育ってゆく。

ダメ男を放っておけない性格?

一家の生活苦は、新しい世に適応できずにニートになってしまった養父の責任が大きい。そのため彼女は小学校下等を卒業してすぐ、機織工場の女工として働くようになる。一家の稼ぎ頭として重労働に明け暮れた。この養父の他にも、彼女のまわりにはダメな男が集まる。

最初に結婚した夫も貧乏を嫌って大阪に逃げた無責任男だった。また、生家の兄弟も働かずセツの稼ぎにたかってくる。だが、セツはそんなダメ男たちを見限ることなく、精一杯のサポートをして世話を焼きつづける。

そしてまた、小泉八雲にもダメ男の要素があったように思う。