お姉ちゃんのヘアアレンジの練習に付き合う藤谷凛太郎(ふじや・りんたろう)くん8歳。

 もう3年も伸ばしているロングヘアがトレードマークです。

 「本当にいろんなところで言われてたよね。『お姉ちゃん』って何回言われたかわからないよね。クラスの子にも言われてたし、外に出ても言われていたのをみていたので」(りんたろうくんの母親・あさみさん)

 男女の区別なく、個性を尊重しようという“ジェンダーレス時代”でも、男の子のロングヘアはからかわれることも多いそう。

 でも本人は…。

 「言われても、自分が伸ばしたいと思ってるから気にしなかった」(りんたろうくん)

 りんたろうくんには、頑なに髪を伸ばし続ける理由があったんです。

 「これでわかりますか?全く髪の毛も全く生えてこないんですけど」(母・あさみさん)

 母・あさみさんは「汎発性脱毛症」と言われる病気で、髪だけでなく全身の体毛がありません。

 「小学校の高学年、4年生くらいの時に抜け始めてちょっとずつだったんですけど、一気に半年で全部抜けて、そこからずっと生えてこないですね」(母・あさみさん)

 それ以来ずっとウィッグをつけて生活してきたあさみさん。

 外見の悩みに加えて、金銭的な負担も大きいと言います。

 「一個を作るのに30~50万とかしていたので、自分で就職していざ払うとなった時に、給料が全部ウィッグの購入費になってしまうのがすごく大変だった」(母・あさみさん)

 毎日装着する医療用ウィッグは、自分の髪のように自然に見える人毛のものが人気です。

 でも、1台30万円前後と高価で、さらに消耗品なので、1年に1回は買い換えなければいけないそう…。

 そんな負担を減らすための取り組みがあります。

 小児がんなどの病気や事故などで髪を失った子どもたちのために、髪の毛を寄付する「ヘアドネーション」。

 この取り組みに賛同したあさみさんは、2019年、ヘアドネーションに対応した医療用ウィッグの専門店を立ち上げました。

 「お子さまに来て頂いて型取りから、髪の長さとか毛量とか色とか、オーダーメイドなのでカウンセリングをしっかりして、一人一人のウィッグを製作してプレゼントする。当事者がやっているので、かなりこだわったウィッグプレゼントしている」(医療用ウィッグ専門店「ANEHA」 藤谷麻未代表)

 子育てをしながら、市内の美容室を回って髪の毛の寄付を募ったり…。

 各地の学校を回り、ヘアドネーションを知ってもらうために、実演をするなど…。

 上質で、求めやすい価格のウィッグを提供したいという信念でこれまで活動してきました。

 そんな母の姿を見て育ったりんたろうくん。

 5歳の頃から、自分の意志で髪を伸ばし始めました。

 「すごい、すごい髪形になってる」(母・あさみさん)

 目標は、自分の髪の毛で大好きなお母さんのウィッグを作ることです。

 「何センチにこだわってたの?特に関係なく?」(母・あさみさん)

 「どのくらい伸ばせばあげれるかなって思って、もうこのくらいならあげれるって聞いたときに、もう切りたと思った」(りんたろうくん)

 「これくらい(15センチ)であげられるって知ってたの?」(ディレクター)

 「お母さんに教えてもらった」(りんたろうくん)

 「伝えた記憶は?」(ディレクター)

 「講演会とかで『何センチからですよ』って話しているのを、一緒に連れていく機会が多いので『ドネフェス』とかそういうので学んだ?」(あさみさん)

 「うん」(りんたろうくん)

 長さ15センチから寄付できるらしく、これだけあれば充分!ついに髪の毛を切る決意をしました。

 母・あさみさんが経営する医療用ウィッグの専門店。ヘアドネーションにも対応しています。

 「ものすごく短くしていいんだもんね」(母・あさみさん)

 「うん、ものすごく」(りんたろうくん)

 「すごい長さ取れるよ」(母・あさみさん)

 「坊主はやだ」(りんたろうくん)

 「結構すぐ、なんでもできないことをあきらめちゃう子なんですよね、普段から。芯をもって伸ばし続けることができる息子ではないと思っていたので、びっくりしました」(母・あさみさん)

 りんたろうくんに強い意志を持たせたのは、大好きなお母さんの忘れられない姿…。

 それは動画に記録されていました。

 「ふふふ…」(母・あさみさん)

 撮影しているのは、あさみさん。

 ウィッグを脱いだ姿を初めて子どもたちに見せた瞬間です。

 「全部取って。きゃはは」(子どもたち)

 無邪気に笑う2人。

 でも、笑いつつも、りんたろうくんがこう言います。

 「すぐかぶってよ、すぐかぶって」(りんたろうくん)

 「すぐかぶって」。まだつたない言葉で、なんだかお母さんを心配しているみたい…。

 この時のことを今でも覚えているそうです。

 「幼稚園のころだったけど、何歳か覚えてない」

 「(Q:どういう時に見たの)覚えてない、けど見たのは覚えてる」

 「(Q:最初びっくりしたんじゃない?)うん」

 「(Q:気持ちを想像したことはある?)ちょっとだけ」

 「(Q:どんな気持ち?)つらそう」(いずれも りんたろうくん)

 「うちはよくプールや海に行くが、できるだけぬらさないように努力して入っているので、たまに『いいな、潜ってみたいな』とか『いい匂いのシャンプー使ってみたいな』とか、もしかするとネガティブな発言をしちゃっているのかも」(母・あさみさん)

 「どういう気持ちで3年前に髪の毛を伸ばしてみようと?」(ディレクター)

 「お母さんに髪の毛をあげたいっていう気持ち。お母さんに自分の髪の毛を使ってほしいから」(りんたろうくん)

 いつでも側に…。

 あさみさんとりんたろうくんだからこそできる、母と子の絆の形。

 「(Q:気に入った)うん」(りんたろうくん)

 「ゆうと~」(りんたろうくん)

 短くなった髪の毛…。お友達の反応は?

 「ちょっと驚いたけどいいと思った」(友達)

 「いえ~い」(りんたろうくん)

 「まぁまぁ」(友達)

 「(Q:長いのも似合ってたんだ)うん、似合ってた」(友達)

 実は長い髪も、りんたろうくんらしいトレードマークになっていたみたい。

 「もちろん誰かからいただいた髪の毛でいま生活ができているんですけど、誰かっていうのがわかるものだとより愛着がわきますし、お守りを常に身に着けながら、本当にがんばれるなと思う」(母・あさみさん)

 「また伸ばすの?」(ディレクター)

 「伸ばそうとは思ってる。まだあげたいから」(りんたろうくん)

 「延々とくれるのかな。これが最後じゃないんだ」(母・あさみさん)

北海道文化放送
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