2023年7月に秋田県を襲った記録的大雨。秋田市でも多くの住宅が浸水被害に遭った。その被害を乗り越えて、かねてからの夢だった飲食店をオープンさせた女性がいる。70代半ばでの新たな挑戦。女性は、支えてくれたのは“共に夢を抱いた亡き夫の見えない力”と信じている。
夢の実現を前に襲われた水害

秋田市楢山にある「朝ごはんとランチのお店 J&B」。朝6時に開店する食事処は、2025年5月にオープンした。

自宅の1階を改装したアットホームな空間で店を切り盛りするのは、田口和子さん(75)。
店を開くことは、「定年後に一緒に店をやらないか」と言っていた夫の学さんとの夢で、以前からずっと話し合っていたという。
しかし、本格的にやろうと話を進めていた矢先に水害に遭った。
復旧途中で突然訪れた夫との別れ
2023年7月、秋田県内を襲った記録的大雨で秋田市楢山地区は多くの住宅が浸水被害を受け、田口さんの自宅も床上40センチまで水に漬かった。

連日、ボランティアの力を借りながら片付け作業を進める中、水害から3カ月後の2023年10月、夫の学さん(当時79)が亡くなった。
田口さんは「何が原因なのか…持病もあったと思うが、夫が水害の3カ月後に急死したので、店のオープンは志半ばで挫折してしまった」と当時を振り返る。
「やりましょう」の一言に背中押される
自宅の浸水被害に、夫の死。
店をオープンする話は一時遠ざかったものの、田口さんの心の中は「店をやるか、やらないか」毎日のように揺れていた。
心が揺れる田口さんの背中を押したのは、水害被害のサポートで訪れていた社会福祉協議会の人の「残り少ない人生、頑張ってやりましょうよ」という言葉だった。

田口さんは「私は少しテンションが下がっていたが、『やりましょうよ』と言ってくれた。それが原動力になった」と話す。
見えない力信じ、これからも二人三脚で
夫の学さんと2人で「絶対かなえよう」と話していた約束を果たすため、田口さんは2025年1月から本格的にオープンに向けて動き出した。

店のテーブルや椅子などは自ら組み立て、準備した。
夫が引っ張ってくれたと語る田口さんは、「人に笑われるかもしれないが、夫が見えない力でここまで動かしてくれたと信じている」と頬を緩めた。
店のコンセプトは“バランスの良い食事”。家庭の優しい味を届けるため、一つ一つ手作りの料理が振る舞われる。
朝は、日替わりのメインと、選べる小鉢がついた定食。

ランチは、日替わりのメインに、刺身、肉料理、サラダなど品数豊富な充実の内容だ。
田口さんは「家族、特に夫が喜んでくれたものを提供したい。夫に褒められたものを提供して、温かい料理を作っていきたい」と語る。

夫婦の長年の夢の店。田口さんはこれまでも、そしてこれからも、亡き夫の学さんと二人三脚で、地域に食から温かさを届ける。
(秋田テレビ)