経済学賞は「スウェーデン国立銀行賞」

先週からスタートした今年のノーベル賞の発表は、日本時間の今夜予定されている経済学賞が最後だ。

医学・生理学賞、物理学賞、化学賞、文学賞、平和賞と続き、6番目の発表が経済学賞だが、実は、この経済学賞はほかの5賞と同じ「ノーベル賞」ではない。

ノーベル賞のウェブサイトをみると、5つの賞が基本的に「The Nobel Prize」なのに対し、経済学賞は「The Sveriges Riksbank Prize in Economic Sciences in Memory of Alfred Nobel」と表記されている。直訳すると、「アルフレッド・ノーベルを記念した経済学でのスウェーデン国立銀行賞」であり、「ノーベル経済学賞」とは書かれていない。

そして、ほかのノーベル賞と同じ方針に従ってスウェーデン王立科学アカデミーにより選考されることが説明されながらも、「The Prize in Economic Sciences is not a Nobel Prize.」(「経済学賞はノーベル賞ではない」)と明記されているのだ。

2019年ノーベル経済学賞受賞者
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もともと遺言になかった賞

なぜこうなっているのだろうか。

ノーベル賞は、ダイナマイトの発明で莫大な財産を築いたスウェーデンの実業家アルフレッド・ノーベルの遺言により誕生した。5つの部門で賞の創設が指示され、1901年に授賞が始まった。

遺言には、基金を安全な有価証券で運用し、発生した利益を毎年の賞金として使うよう記されている。

一方、経済学賞は、もともと遺言にはなかったものだ。

スウェーデン国立銀行の設立300年を記念して、新たな部門としてつくられた賞で、第1回の授賞が1969年と歴史が浅い。この賞の賞金は同銀行の拠出でまかなわれる。

受賞者はアメリカが突出

経済学賞は、経済についての新たな理論を打ち立てたり、メカニズムを数式などで説明したり、実証研究で独自の手法を開拓するなどした人に贈られてきた。

授賞の範囲は、国全体の経済活動を対象にする「マクロ経済学」、家計や企業行動に焦点をあてる「ミクロ経済学」、統計学の手法で分析する「計量経済学」に加え、心理学的要素を交えた「行動経済学」、さらには、貧困など途上国の問題を扱う「開発経済学」などの新たな分野にも、広がってきている。

過去の受賞者の大半をアメリカの大学の研究者が占める。研究の中心地として影響力が強いためで、アメリカ国籍を持つ人も多い。

日本人の受賞者はこれまでゼロだが、長年、受賞の可能性が取りざたされてきたのがアメリカ・プリンストン大の清滝信宏教授だ。経済への小さな負のショックが土地や住宅など資産価格の下落を通じて不況を深刻なものにしていくメカニズムを明らかにし、金融危機のあとの長期停滞を説明する理論を展開して、世界の中央銀行による危機対応や銀行規制に生かされたとされている。

経済学賞だけ税金がかかる?

今年のノーベル賞の賞金は、1000万スウェーデンクローナ、日本円でおよそ1億2000万円となっている。経済学賞も同額だ。去年の900万クローナから引き上げられた。

仮に日本人が受賞した場合、いまの法律のままだと国内居住者のケースでは日本の税金がかかることになる。

所得税法第9条では、「ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品」については「所得税を課さない」と定めている。この規定は、1949年に湯川秀樹氏による日本人初のノーベル賞受賞を機にできたもので、経済学賞がつくられたのはそれよりあとのことだ。

財務省によれば、スウェーデン国立銀行から出される経済学賞の賞金は「ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品」ではないので、「一時所得」として課税されることになるという。

日本人受賞の場合は、法改正をめぐる議論が出てくるかもしれない。

経済の現実との向き合い

およそ120年の伝統をもつほかの5つの賞に対し、経済学賞の歴史は50年あまりに過ぎない。

経済学を自然科学と同列に賞の対象とすることに疑念の声も一部で聞かれるほか、受賞者のなかには、投資モデルの実践で失敗したと批判されたケースもある。

コロナ禍で世界経済が大きな試練を受けるなか、現実と向き合うため、どのような「理論」に焦点をあてていくのか。

ノーベルの遺言になかった唯一の賞の模索は続く。

【執筆:フジテレビ解説委員 智田裕一】