石川県白山市に本社を構える石川製作所は、1921年の創業以来蓄積してきた技術を生かし、高性能なモノづくりを続ける老舗の機械メーカーである。新幹線の車両1両分にも匹敵する巨大なダンボール製函印刷機が工場内で組み上げられる光景は圧巻だ。しかし、この会社の真の魅力は、社長の小長谷育教氏が掲げる「社員が幸せだと思ってくれる会社」という経営哲学にある。
「新幹線の車両1両分」の巨大機械が生み出すもの

工場に足を踏み入れると、その規模に圧倒される。「うわあ、大きな機械がありますね。これ1つの機械になると思うんですが、何を作ってるんですか、これ?」という質問に、紙工技術部長の辰巳雅隆氏は「ダンボールの印刷組立を一貫で行うダンボール製函印刷機というものです」と答える。

この機械の大きさを尋ねると、「新幹線の車両1両分ぐらいですかね?」という返答が返ってきた。韓国企業からの発注を受け、約半年をかけて組み上げられたこの機械は、「紙を印刷して、ダンボールにするために切れ目を入れて、折り曲げて、のりをつけて、ダンボールの形にこの機械で一括して行うことができます」という優れものだ。

その処理能力は驚異的で、1分間に350枚の印刷が可能。

最大4色まで使用でき、糊付けまで自動で行う。機械が稼働すると、「音で高速になってきてるって。車両1両分って言ってましたけど、電車に乗ってるような感じですよね」という表現がぴったりの迫力だ。

防衛機器からダンボールまで、安定経営を支える二本柱
小長谷社長によると、同社の事業は二本柱で構成されている。「防衛機器と、それからダンボールを作る機械。この二本で今やっています」という。

防衛機器については、「よくブラックボックスとか言われてる飛行機に積んで飛行機がどのような速度でどこを通ってきたかという記録する装置ですね」と説明。これが売上の1番を占め、2番目が機雷だという。

一方、ダンボール製造機械については、その需要の安定性に着目している。「ダンボールっていうのは、大体6割ぐらいが、食品を梱包するんですね。お酒とか卵とか、野菜とかですね。ですからどんなに不景気になってもですね、ダンボールの需要っていうのはほとんど落ちないんですよ。非常に安定した業界であるということです」
「機械屋冥利」を感じる技術者の情熱

設計から製造、メンテナンス、カスタマイズまで一貫して手がける同社の技術力の源泉は、技術者たちの情熱にある。

巨大な機械を前にした辰巳氏は、完成した時の心境を問われ、「自分が考えて図面を書いた部品が実際に機械について機械が動いているっていうのを見るのは、やっぱり感無量ですね。機械屋冥利っていう感じ」と語った。
16年連続黒字の秘訣は「社員の待遇改善」

小長谷氏が2006年に大手商社から入社した当時、同社は「10年以上赤字の続く経営危機の状態」だった。しかし事業を見直し、現在は16年連続で黒字を維持している。

その成功の秘訣について、小長谷氏は「社員の待遇改善に1番力を注いでます」と明言する。具体的には「13期連続ベースアップしてますし、ボーナスも常に増やしておりますし、退職金も、部長クラスになれば、2000万円を大きく超えます」という充実した待遇を実現している。

特に画期的なのは子育て支援制度で、「扶養家族じゃなくても子育て手当を払う、社員同士結婚すれば倍につくわけです」という仕組みだ。

白山を望む社員食堂「ハクサンダイニング」
3年前に整備された社員食堂「HAKUSAN DINING(ハクサンダイニング)」は、「白山が目の前に見えるような食堂を作りました」という社長の思いが込められた空間だ。

人気の日替わり定食はメインのおかずと小鉢が選べて350円。

利用する社員からは「安いです。美味しいです。」という評価を得ている。親子で同社に勤務する社員もおり、「皆さん優しいし、受け入れてくださってるんで。楽しくやってます」という声が聞かれた。


未来への投資としての人材重視
小長谷氏の経営哲学の核心は、人材への投資にある。「いかに優秀な人材を集めて、研究開発力を高めるかが、今後10年、50年の鍵になると思いますね」

そのための条件として、「従業員が石川製作所に入って良かった、この会社でずっと最後まで働きたいと、そういう風に思ってもらえることが1番大事なことですね」と語る。

創業100年を超える老舗企業が、伝統的な技術力と現代的な人材重視の経営を両立させ、持続的な成長を実現している。その背景には、「社員が幸せだと思ってくれる会社」という明確なビジョンがあった。
(石川テレビ)
