閉幕まで残り1カ月を切った、大阪・関西万博。熱狂の裏で、終わりのない苦しみにもがいているのが、海外のパビリオンの工事を担った、日本の下請け業者だ。
万博開幕後、次々と明らかになった「パビリオン建設費の未払い問題」。
いまも30社が、経営危機に直面する一方で、“海外パビリオンから手を引いた”大手ゼネコン関係者からは、この未来を予測していたとみられる「リスク」も。
さらに、取材班は未払いを訴えられている海外の元請け業者に接触。
国家的プロジェクトで、なぜ未払いが続出したのか。ツイセキした。

■盛況の裏で…未払い問題続出
今月15日。来場者数はあわせて2400万人を超え、その勢いは衰えを知らない。
記者リポート:閉幕まで1カ月を切った大阪・関西万博です。来場者は駆け込みで日に日に増えています。中でも特に人気なのが海外のパビリオンです。フランス、アメリカパビリオンの前には非常に長い行列ができています。
絶大な人気を誇る、“万博の華”「海外パビリオン」。
しかしいま、この「海外パビリオン」をめぐり「ある大きな問題」が起きている。
未払いを訴えるA社 代表:2月の末が最後ですね、そこから今まで1円も支払われてないという状況で、もうこれ半年以上。あわせて1億2000万円くらい。
関西の建設会社A社。
A社は万博で地中海の島国「マルタ」のパビリオンの工事に携わったが、工事代金およそ1億2000万円が支払われていないと訴えている。
パビリオンの工事は参加国が元請け業者に発注。その下に、複数の下請けの業者が連なる多重構造だ。
A社は1次下請けで、元請け業者からの支払いがないという。
未払いを訴えるA社の代表:支払ってほしいとずっとお伝えして、請求書も度々送らせてもらったんですけど、色んな理由をつけられて、支払ってもらえない状況が続いている。

■徹夜で工事したのに支払われない「何の希望もない」
マルタは、海外パビリオンの中で最後に着工。
A社は開幕に間に合わせるために、夜を徹して工事を行った。
未払いを訴えるA社の代表:普通に考えてありえない工期とありえない現場の環境。24時間体制で現場を回していかないといけない、元請けからのプレッシャー。
元請けはフランスに本社を置く「GLイベンツ社」。
今回の万博では4つの海外パビリオンを担当した。
未払いによってA社は資金繰りが悪化。
社員を減らし、乗っていた車なども手放した。
未払いを訴えるA社 代表:これだけ影響が出てる。嘘じゃないです。本当にお金ないんですよ。いまなんとかここにいますけど、本当に良からぬことを考えたりしますし。何の希望もない。

■「追加工事費3億円」OKもらっていたのに…
未払いに苦しむ会社はほかにも。
セルビアとドイツのパビリオン工事を請け負った、大阪市のレゴ社。
追加工事の費用などおよそ3億3000万円の支払いを求め、GL社を提訴した。
レゴ社 辻本敬吉社長:誠意を持った対応をしていただけなかったため本件の提訴にいたった。
「会社に勢いをつけたい」と受注した万博工事。
こんな事態になるとは、想像もしていなかった。
レゴ社 辻本敬吉社長:「最後まで工事するなら3億ほど追加工事費が出ます」と(GL社に)伝えた。(GL社は)「フランス本社でOKもらった」と。
「追加の工事費が出る」とGL社に伝え、GL社側も了承していたと説明するレゴ社の辻本社長。
しかし…パビリオンが完成したら手のひら返しをされたと言うのだ。
レゴ社 辻本敬吉社長:でも結局工事終わった4月10日に引き渡し終わった。(すると、GL社から)「追加?何ですかそれ?」(と言われた)。だからみんな怒ってる。
社会保険料を支払うことができず、会社の口座を差し押さえられるなど、影響は甚大。
また、レゴ社自体も下請け業者に工事費を支払えていない。

■”30社”が被害を訴え
レゴ社の辻本社長は1日でも早く支払おうと、いまはどんな小さな仕事でも請け負うようにしているそうだ。
レゴ社 辻本敬吉社長:僕らはほんまにこういう現場で食いつないで、ちょっとでも業者さんに払っていかなきゃあかんのですよ。僕らが倒れては駄目だ。レゴが倒れたらそれ以下の(下請け業者も)3億円も全部焦げてなくなりますから。
取材を進めると、未払い問題が起きているのはすべて「海外パビリオン」で、11か国にのぼることが分かった。
さらに、あわせて30業者が被害を訴えていることが判明した。
なぜ、海外のパビリオンだけで、このような事態が相次いでいるのか?
取材を振り返ると、かねてから指摘されていたのは「工期の遅れ」だ。
大阪府・吉村知事:海外のパビリオンは非常にタイトになってきています。(おととし8月)
おととし、日本の大手ゼネコンが次々と海外パビリオンの建設から手を引き、開幕に間に合わない可能性が浮上。
危機感を抱いた大阪府が急遽、中小の建設会社に協力を依頼する事態となった。

■大手ゼネコン「工事代金が支払われないリスク」
大手ゼネコンはなぜ工事から撤退したのか?
取材班は万博に携わった大手ゼネコンの関係者に話を聞くことができた。
大手ゼネコン関係者:「海外とのやりとりは難しいで」というのはゼネコンの中では共有されてた。日本国内で建てるってなったら日本の企業が建てる。そこの資金回収は慣れてるんですけど、海外の国から資金回収するのはなかなか難しいものがあって、そこを与信上のリスクとしてゼネコンがとらえた。
「工事代金が支払われないリスクを考慮して海外パビリオンから手を引いた」と話す関係者。
その結果、海外企業との取引に慣れていない、中小企業に工事が集中したのだ。
(Q:外資系企業とやり取りするうえでコミュニケーションの難しさは?)
レゴ社 辻本敬吉社長:非常にありました。ニュアンスが違うので、くみ取るのが難しい部分がありました。時間的な制約で(コミュニケーションが)不足している部分が多々あったと思います。

■「色は…」立ちはだかる言葉の壁
大手ですら「やりとりが難しい」という海外企業との仕事。その状況がわかる音声がある。
工事期間中の、GL社と業者のやりとりだ。
【GL社】「色はあるはずです」
【業者】「これは作っている色に…」
【GL社】「でも色があるはずです」
【業者】「これは作っている色なんですよ」
【GL社】「色は残ってる分がある」
GL社の日本語はカタコト気味。言葉の壁が立ちはだかっていた状況がうかがえる。
GL社は未払いについてどう説明するのか。
取材班は万博会場の近くにあるGL社の日本法人に向かった。

■日本法人は不在 本社は「事実と反する」と提訴
記者リポ―ト:こちらがGLイベンツ社が入る建物です。なぜ未払いが起きているのか。その理由を聞いていきたいと思います」
しかし、取材班が何度も訪れるも、オフィスに従業員が戻ってくることはなかった。
フランス本社に問い合わせると…。
GL社からのメール:事実に反し誤解を与える発言が相手からあったことは容認できない。債務が存在しないことを求める訴訟を提起しました。
さらに従業員に連絡をとるも…。
GL社の社員:だいぶ認識は違う。一方的に未払いと言われて腹を立てています。
業者によると、GL社の主張は「下請け業者に納品の遅れやメンテナンスの不備など契約の未履行があり、金を支払うつもりはない」というもの。
それを証明するための裁判まで起こしたというのだ。
しかし、A社としては、パビリオンを完成させ納品したため、全く身に覚えのない主張だ。
残り1カ月を切った大阪・関西万博。
問題は平行線のまま解決の糸口を掴めていない。

■「パビリオンに罪はない。ただ助けてほしい」
レゴ社 辻本敬吉社長:パビリオンに罪があるのか。僕らの子供たちですよね。こいつらに罪はないので楽しんでほしいです。ただ助けてほしいです。
未払いを訴えるA社 代表:未払い金を全部払って欲しいというわけではないんです。補填して欲しいというわけではなくて、もう本当にいま乗り越えるだけのもう最低限の力を貸していただきたい。そうすれば必ず我々は社会貢献していってお返しすることができます。
華やかな万博の陰で相次ぐ工事代金の未払い。
事態解決のため救いの手が求められている。

■「異例だが黒字が出たら助けてあげられないのか」と菊池弁護士
相次ぐ建設費の”未払い”問題。
その根源について、公共事業に詳しい筑波大学の楠茂樹教授は「工期の短さ」だと指摘する。
「そもそもコミュニケーションが取りづらい中、工期が窮屈になると、人件費が高騰しコスト増加。支払いをめぐるトラブルに発展しやすい」ということだ。
菊地幸夫弁護士:ここで出てる問題は、万博特有の問題もあります。コミュニケーションの問題とかですね。あるいは契約書をきちっと作るのか。日本の業界ってまだまだ契約書を十分じゃないところもまだ残ってるかと思うんですけどね。
そういうところもある一方、人件費とか、ペナルティーとか、納期の遅れとか、こういう問題が日本国内の建設でのトラブルでも多く起きてる問題なんですね。
結局最終的には裁判で解決するしかないようなところになってくるんですけれども、
ただ、工期がなかなか迫って。だけど、受注する企業がなかなか見つからないという中で手を挙げてくれた会社の方々ですからね。
異例なんですけども、なんとか万博がうまくいって、黒字でも出たら、少し助けてあげることはできないのかなって思ってしまいます。
吉原キャスター:現状、博覧会協会は、業者間のトラブルということで補償する予定はないということなんです。
菊地幸夫弁護士:それは正論なんですけどね。でもやはりこうやって、皆さんがたくさん万博に来られて、みんなで良かったねって言ってるのは、業者の方たちがパビリオンを間に合わせてくれたおかげっていうのもありますので。
閉幕まで2週間余り。本当にこのままでよいのだろうか?
(関西テレビ「newsランナー」2025年9月25日放送)
