◆最低賃金1000円超に…2002年以降、最大の引き上げ額
OHK岡山放送で平日午後6時9分から岡山・香川エリアで放送中の「OHKライブニュース」で、今、関心の高い話題を詳しく解説する「急上昇ニュース」。今回は物価が高騰する中、過去最大の引き上げが見込まれる最低賃金について取り上げる。地域経済にどのような影響をもたらすのか…現状を取材した。
最低賃金が1000円を超える時代がいよいよ岡山・香川にもやってくる。岡山では12月1日以降、現在の時給982円から65円上がって1047円に、香川では10月18日以降、現在の時給970円から66円上がって1036円となる見通しだ。
いずれも最低賃金を時給だけで示すようになった2002年以降、最大の引き上げ額となった。物価高に対応するため、岡山・香川でも大きな節目を迎えたと言える。
◆そもそも、最低賃金ってどう決まる?
そもそも最低賃金は毎年、国の目安をもとに、都道府県の審議会で議論されている。岡山・香川ともに8月に開かれた審議会では、労働者側が生活を守るために大幅な引き上げを求めていた。
一方、経営を担う使用者側は、人件費の負担が増えるため反発し、労使の間で意見が対立した。結論が出るまでに数日を要したが、結果として“過去最大の引き上げ”で決着した。
この決着について国や労使関係者、専門家はどう見るのか。

◆「最低賃金」の答申受けた岡山労働局長は…
労使間の決着を経て答申を受け取った国の出先機関、岡山労働局の森實久美子局長は今回の議論について「議論の中で注目されたのが食料品など、物価高騰の影響が大きいという点。そういった現状が反映された額になったと思う」と振り返り、物価高騰の中での決着に対して評価をしている。

◆1000円超に労働者からは「このまま上がってもらえたら」
労働者側も期待の声を上げる人が多く見られた。
30代の会社員は「1000円超えたことはうれしく思う。まだ大阪や東京と比べると低い方になるので、このまま上がってもらえたら。お昼を食べたが、食費が年々上がってきていると感じる」
また、10代の専門学校生は「上がったのは良いことだと思うが、もう少し上げてもらいたい。物価高や奨学金をもらっているので将来的にも(上げてもらいたい)」
最低賃金にも、さらなるアップを求める意見もあった。

◆恩恵はあるが…気になる“年収の壁” 専門家の見方は?
一方、地域経済に詳しい岡山大学の中村良平名誉教授は、「消費者、特にパートで働く人にとって最低賃金が上がるということは使えるお金が増えるからありがたいことだと思うが、中長期的には必ずしもメリットが100%というわけではない」と、デメリットの存在についても否定しない見解を述べた。
懸念の背景にあるのが、一定の年収に達すると課税され、働き控えにつながるとされる「年収の壁」の問題だ。中村良平名誉教授はその点で「労働時間を抑える人も出てくるので、不安を持っている人も多い。恩恵はあるが、中期的に見て本当にこれが自分にとって良いことなのか考えた方がいい」と、結局のところ、収入アップになるとは限らない可能性について言及した。

◆「非常に厳しい数字」賃金アップに不安を抱く使用者
そして大きな不安を抱くのが使用者側だ。
使用者代表委員の西谷治朗さんは「2024年も50円の引き上げだったがさらに急激に上回るということは、地元の中小・小規模事業者にとって非常に厳しい数字」と言う。
一部の労働者からも・・・
「うれしいとは思うが、今、物価高で店も運営が大変なので、従業員の給料が上がって店が回っていくのかなと思う(20代学生 アルバイト)」
「急に上がったら大変なところもあると思うので気になる(20代・会社員)」
と、懸念の声が上がる。

◆対策によってはモノの値段に転嫁の恐れ
中村良平名誉教授は、地方における使用者側を巡る環境は、さらに厳しくなるという意味で、こう指摘する。
「岡山県は都市部を中心に最低賃金の基準が決まっていく。どうしても県北は産業基盤が弱いし生産性も低い。生産性を上げるためにデジタル化を進めるとか、雇用調整をやっていかざるを得ない。働き手に取っては就業機会が減るので同じ県内でも地域間の格差が出てくるのではないか」
そして使用者側が様々な対策を進めると、影響を受けるのは多くの消費者だと指摘。
「モノやサービスの値段に転嫁されることが怖い。消費者に跳ね返ってくる。経済全体の影響を見極め評価しながらバランスの取れた施策をしていくことが必要」と、最低賃金のアップにともない、人件費の価格転嫁が結果として消費者でもある労働者自身に跳ね返ってくることを懸念した。

◆持続可能な地域経済の未来”をどう描くか
消費者の暮らしをより良くするために行う最低賃金の引き上げ。単純に金額が上がれば良いというわけではない。
岡山・香川の過去10年の推移をみると両県とも右肩上がりで、全国平均を下回る水準だった。但し、その差は10年でやや縮小している。
特に、ここ2年は縮小幅が大きくなっていて、岡山・香川でも深刻な物価高に機敏に対応しているのが分かる。
経済を回すという意味では、賃金が上がらない社会から、物価高に伴って賃金が上がる社会になったことは評価される。ただ物価も、賃金も上がり続けるのが良いわけではない。
賃金の引き上げは「労働者」と「使用者」という単純な問題だけでなく、持続可能な地域経済の未来をどう描くかという問題です。私たちの働き方や地域経済の在り方を今一度考えていく必要があるのではないだろうか。
(岡山放送)
