東日本大震災のボランティアをきっかけに岩手県釜石市へ移住した女性が、閉園した公園を地産地消カフェと遊び場が融合した地域の憩いの場として再生。かつての所有者である高齢夫妻への恩返しと地域活性化への思いが込められたこの場所は、子どもたちの笑顔で再び輝きを取り戻している。

震災ボランティアから始まった縁

8月5日、釜石市甲子町にオープンした「ココイロこすもすファーム」は、地産地消のカフェ・広い遊び場・収穫体験ができる畑を併設した複合施設だ。

来園者からは「竹のトランポリンが登れたり、寝転がれたりして楽しかった」「癒やされに来るのに、最適な景色と環境だと思う」と好評だ。

竹のトランポリンがある広い遊び場
竹のトランポリンがある広い遊び場
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この場所を手掛けたのは、ココイロいわて代表の石塚佳那子さん(37)。「自然の中で子どもが遊び、地域の人と交流できる場所を作っていきたい」と話す。

富山県出身の石塚さんは、東日本大震災当時、東京都の人材派遣会社で働いていた。
震災の翌年にボランティアとして初めて釜石市を訪れたことが、この地との縁の始まりだった。

ココイロいわて代表・石塚佳那子さん
ココイロいわて代表・石塚佳那子さん

「自然が豊かなところもすごくいいなと思うし、何よりも人。地元でずっと震災復興に向けて頑張っている人たちもいるし、いいまちづくり、未来づくりをしていきたいと思っているのが釜石の魅力」と石塚さんは語る。

コスモス畑から子どもの遊び場へ

「ココイロこすもすファーム」は、震災前は釜石市在住の藤井了さん(79)・サエ子さん(80)夫妻が所有するコスモス畑だった。

藤井さん夫妻が所有するコスモス畑(震災前)
藤井さん夫妻が所有するコスモス畑(震災前)

震災後、市内の公園には仮設住宅が建ち、遊び場が少なくなっていたため、子どもたちが自由に遊べる場所を作りたいという思いから、1年かけて畑を公園に作り変えた。

2017年8月撮影「こすもす公園」の一部
2017年8月撮影「こすもす公園」の一部

遊具を手づくりするなど、公園の整備には県内外から多くのボランティアが協力し、石塚さんもその一人だった。

「藤井サエコさんと了さんご夫婦がすごく温かく迎えてくださって、震災のボランティアで来たが、色々なものを私の方がいただいて…」と石塚さんは当時を振り返る。

ボランティア活動していた石塚さんと藤井さん夫妻(2016年撮影)
ボランティア活動していた石塚さんと藤井さん夫妻(2016年撮影)

震災の翌年にオープンし「こすもす公園」と名付けられたこの場所は、子どもたちの笑顔にあふれ地域を活気づけた。

しかし、藤井さん夫妻は年齢を重ねるなかで公園の維持・管理が難しくなり、3年前に惜しまれながらも閉園した。

恩返しの思いを込めた再スタート

藤井サエ子さんは、「たくさんの人たちがここに来て、色々な人たちと交流できて、町が少しずつ元気になっていると思って」と当時を振り返る。

藤井了さんは、「本当はもっと続けたかったが、年も年で色々なことがあって10年節目にやめたが、『残念』とか『また再開してほしい』という声が多かった」と語る。

かつての講演所有者、藤井了さん・サエ子さん夫婦
かつての講演所有者、藤井了さん・サエ子さん夫婦

その思いを受け継いだのが、復興支援の活動を続けようと2015年に会社を辞めて釜石市へ移住した石塚さんだった。

「(藤井さん夫妻が)家族のように受け入れてくださったので、今は恩返し」と石塚さんは語る。

石塚さんと藤井さん夫妻(2025年7月)
石塚さんと藤井さん夫妻(2025年7月)

オープンを目指し、石塚さんは2025年1月に「ココイロいわて」という有志の団体を立ち上げた。
石塚さん自身も2児の母であることから、子育て世代のメンバーと意見を出し合い、遊び場の設計やカフェのメニューの開発に取り組んできた。

オープンの準備を進める石塚さん
オープンの準備を進める石塚さん

「もう一回この場所を再生することで、外から来る人も地域の人も、またここで楽しんで、子どもの笑顔と笑い声が聞こえる場所にしていきたい」と石塚さんは言う。

地域に愛される新たな交流拠点

オープン当日、カラフルで大きな壁画が映える遊び場には、竹で作ったジャングルジムが設置され、早速地元の親子が遊んでいた。

カフェには地元の人々がランチを食べに集まった。以前の公園に来たことがあるという夫婦は「うちの子たちが小さい時は、ここでよく遊んでいた。保育園の遠足とかプライベートでも来ていて。一回来てハマって、何回かその後来ていましたね」と懐かしそうに語った。

地産地消メニューを提供する広いスペースのカフェ
地産地消メニューを提供する広いスペースのカフェ

カフェでは地産地消を意識したメニューが提供され、釜石市の特産品・甲子柿を使ったドレッシングがかかった新鮮な野菜が好評だった。

野菜や果物は、藤井さん夫妻が隣接する畑で育てているもので、ズッキーニやトマト、ジャガイモなど15種類以上ある。

藤井さん夫妻が育てた野菜を使ったメニュー
藤井さん夫妻が育てた野菜を使ったメニュー

オープン初日には、石塚さんに思いを託した藤井サエ子さんの姿もあった。

藤井さんは「みんなの力で何とかできたので、うれしい。彼女は行動力もあるし、素晴らしい人なので、みんなをまとめながら、もっともっと地域を元気にしてほしい」と笑顔を見せた。

石塚佳那子さんと藤井サエ子さん・震災がきっかけとなった縁
石塚佳那子さんと藤井サエ子さん・震災がきっかけとなった縁

石塚さんは、「大人から子どもまでみんなが楽しめる、地域の交流拠点のような場所になれば。今回ここが一歩目。これからも続けていけるように頑張っていきたい」とすでに未来を見据えている。

東日本大震災をきっかけにできた交流の場は、世代を超えて愛され続けている。

岩手めんこいテレビ
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