近年、クマやイノシシの出没が相次ぎ、農作物や人への被害が各地で深刻な問題となっている。
住民の安心を守るため、広島・安芸高田市で「トウガラシの辛み成分」を使って野生動物を遠ざける実証実験が始まった。
クマの痕跡に“液体”を散布
この夏、安芸高田市の里山で木を爪で引っかいたようなクマの痕跡が見つかった。
8月末に現場を訪れると、その木に“ある液体”を散布している。人里に迫る野生動物を未然に追い払おうと地元の江の川漁協が考案した「カプサイシン」を含む液体だ。

それにしても、なぜ“漁協”が?
もともとは、川の魚を食べてしまうカワウをどうにかできないかと漁協が考えたのが始まりだった。そこで目をつけたのがクマよけスプレーにも使われる「カプサイシンの刺激」。その発想を山へも応用し、今では害獣対策へと広がっている。

江の川漁協の熊高昌三組合長は「散布を広げていき、クマを人里から遠ざけることができれば」と期待を込める。発見されたクマの痕跡に液体を吹きかけて約1カ月、周辺に新しい痕跡は見られなくなった。
「カプサイシンの臭いに反応したのかな」と熊高組合長は手応えを感じている。
激辛トウガラシ「ドラゴンズブレス」
この液体には、庄原市東城町で栽培されたトウガラシ「ドラゴンズブレス」から抽出したカプサイシンが含まれている。ハバネロの8倍もの辛さを持つとされる激辛品種だ。

吉岡香辛料研究所の吉岡紘代表は「国内で入手できる品種の中では最も辛い。人間にとっても強烈だが、動物も同様にかなり異常を感じると思う」と話す。実際、動物を忌避する商品の多くにカプサイシンが入っているという。

「ドラゴンズブレス」はどれほど辛いのか。五十川記者が試しになめてみた。
一瞬、舌に触れただけで顔が大きくゆがむ。
「味はしないのに痛みが走ります。辛さを超えている…。ちょっと汗が出てきました。顔全体から汗の粒子が吹き出すような感じです」
専門家が指摘する課題
効果はクマにとどまらない。イノシシの出没エリアでもカプサイシン入りの液体をまいてから変化が見え始めた。

畑の周辺に液体を散布してもらった住民は「イノシシの足跡が途中まで来ていたのに、作物には近寄らず裏山へ引き返した」と驚きを語る。
「効果があったんじゃない?ちょっとは安心」
熊高組合長も「そこにうまいウリがあるのに行っていない」と畑を確認。“カプサイシン作戦”は少しずつ住民の安心につながっているようだ。
「まだ実証実験中だが、一定の成果が見えてきた。柵は手間もかかるし、お金もかかる。シカは柵を飛び越える。野生動物の侵入を防ぐ二次的な対策として“臭い”が使えないかなと」
江の川漁協は今後も実験データを積み重ね、「カプサイシン」の効果を検証していく考えだ。

一方で、専門家は「効果の持続性」に懸念を示す。広島市安佐動物公園の野田亜矢子獣医師は「臭いによる刺激は動物が慣れてしまう可能性がある。なめたり鼻について痛いという刺激が続くのであれば『ここは危険だ』という認識につながるかもしれない」と指摘する。
課題はあるものの、柵など従来の対策に加わる“見えないバリケード”として期待が高まる。
(テレビ新広島)