国の伝統工芸・長野県信濃町の「信州打刃物」に2024年、60年ぶりに「新弟子」が誕生しました。修業開始から1年4カ月、このほど、これまで作った「鎌」が問屋の目に留まり「商品」として販売されることになりました。


炉で熱せられる鋼に金槌を打ち付けます。松川町出身の大木島蓮さん19歳です。

2024年、高校卒業後すぐに地域おこし協力隊員として信濃町に移り住み、「打刃物職人」を目指して修業しています。

この日、作っていたのは「鎌」です。

“打刃物職人”目指す・大木島蓮さん(19):
「前に比べると出来はよくなったので、そこからどう直したりとか、もっと良くなるかを考えるようになった」


“師匠”・石田俊雄さん(74):
「こことこっちが直角に見えれば、あと『ヨリ』を直せば直るから」

師匠の石田俊雄さん(74)はこの道60年、「伝統工芸士」にも登録されています。

石田俊雄さん:
「一番感心していること、一番いいことは道具の扱い。箸、つち、機械の操作が全然変わった」


信濃町は「打刃物」の里。約470年前、川中島の合戦の際に刀剣や武具を製造・修理する刀鍛冶が移り住んだのがルーツとされています。

その後、冬場の手仕事として定着し、鎌や包丁が作られてきました。

それが「信州打刃物」です。


大木島さんは60年ぶりともいわれる期待の「新弟子」です。

アニメをきっかけに鍛冶の仕事に興味を持った大木島さん。「刃物」の作り方などを学ぶため工業高校に進みました。高校3年生の時に包丁を製作する過程で、「信州打刃物」を知り魅力に取りつかれるようになりました。

一方、課題にも気付きました。

大木島蓮さん:
「(職人の)人数も少なくて、もしかしたらなくなってしまうかもしれないとわかった。打刃物をやろうという形になりました」

信濃町の打刃物職人は40年ほど前は60人以上いましたが、今は石田さんを含め5人のみ。弟子は入って来ず、74歳の石田さんが最年少です。

石田さん:
「ここの集落は昔、相当(鍛冶屋が)あった。周りはほとんどそうだったね。ちょっと残念だね、寂しい」


60年ぶりの「新弟子」大木島さん。

石田さんのもと、これまで、鋼を叩いて形を作る「鍛造」や鎌の形にした鋼を削り刃を付ける「研ぎ」などを訓練してきました。


2025年3月には千葉県のイベントで「研ぎ」の出張サービスも経験。

石田さん:
「試してみてください。だめだったら研ぎ直します」

「研ぎ」を依頼した客:
「スパスパ!」

大木島蓮さん:
「(初めてお金もらっての仕事で)責任を感じる仕事でもあるので、喜んでもらえたときの達成感はその分ある」


修業を始めて1年4カ月。次のステップに進みます。

「焼入れ」です。ガス炉で800℃近くまで熱した鋼を水に入れ急激に冷やすことで組織を硬く、粘り強くする作業です。「刃物に命を吹き込む」重要な工程です。

まず、炉に入れる前の鎌に粘土質の泥「焼刃土」を塗っていきます。

石田さん:
「効能は(泥を塗らずに急激に冷やすと)水と鎌の間に水蒸気の膜ができる。(泥を)塗ってあると一気に(水を)吸い込む、0.何秒でキューっと吸い込む、すると、急に冷えるからあまり(鎌が)曲がらない」


その後、1300℃に熱せられた炉の中へ。

全体が赤くなったら水で冷やします。

大木島蓮さん:
「全体的に赤くなるかというところと、水に入れるタイミング。入れた後、何秒入れなきゃいけないかを意識しています」


熱しすぎると「もろく」なり、足りないと「柔らかく」なる鋼。さらに水で冷やす時間が長すぎると「焼き割れ」などを起こし、短すぎると柔らかくなってしまう繊細で重要な作業です。

その見極めに「職人の技」が出ます。

石田さん:
「品物によっては厚いのと薄いので冷える時間が多少違うので、(水に入れたときに)握っているとここ(手)が電気が来たようによくわかる、びりびりって。周りで見てたらわからない、音しか聞こえないでしょ。それはほとんど勘、目をつむっていたって(わかる)」

その感覚を必死で覚える大木島さん。夏場の作業場の体感温度は40℃に。

大木島蓮さん:
「夏にやるようなもんじゃないので、そこが苦しいところ」

石田さん:
「かなりきついからね、この仕事。とにかくあきらめないで頑張って、維持していく、気持ちも維持していかなきゃならないし。同じことだってあきれるほどやってもらいたい」

鎌が冷めたら次の工程は「泥落とし」です。

石田さん:
「もう少し刃を立てるんだよ、鋼の方、そうそれでいい」

大木島蓮さん:
「(何してる?)これは焼きが入っているか、入っていないかを(鎌をこすって)確認する作業。焼きが入っていないと、音がちょっと鈍いような、滑るような音なんですけど、これが焼きを入れると、ちょっと高い音が鳴る」

確かに焼き入れ後は音が高いことが分かります。

石田さん:
「(大木島さんの焼き入れは)うまくいっているよ。これさえ正確に入っていれば、あとは刃を研げば必ずよく切れるはずだ」

大木島さんは、これで鎌づくりの工程を一通り学びました。

大木島蓮さん:
「まだまだここからじゃないかと。今はもっと練習しないと」


この日、修業が終わってから向かったのは打刃物を扱う老舗「問屋」です。

大木島蓮さん:
「石田さんから6本いいって言われたので、見ていただいて」

木田弁治商店・木田尚也さん:
「石田さんが確認してくれたってことだね」

明治時代後期から続く老舗の8代目・木田尚也さんに自分で作った鎌を「商品」として見てもらいます。鎌の確認は単なる「検品」ではなく「信州打刃物」としての品質と信頼を守るための最終審判。厳しいチェックが入ります。

木田さん:
「ちょっとこれコミ(鎌の刃と柄をつなぐ部分)が太いので、普通このくらいの柄を付けると細くないと。全体的にちょっと太いよね」


木田さん:
「これ、なかなかかっこいいね。ちょっと重たいけどね、ちょっと肉があるけど、形はいいですね」

数本の鎌が木田さんの目に留まります。

木田さん:
「でも、すごいよね。2年でここまでできるのは大したものですよ」

大木島蓮さん:
「実感は自分だと湧かないので、そう言ってもらえればうれしい限りです」

木田さん:
「なかなか短時間でこれだけできる人はいないと思いますよ」


実は、これまでにも「売り物になる」と評価されたものがあり、8月からオンラインショップでの販売が始まりました。「若き挑戦!修業中シリーズ」として6割ほどの値段で販売しています。

木田尚也さん:
「希望の星です。本当に明るい材料で、地域おこし協力隊であと1年半頑張ってもらって、地域に溶け込んでもらって、職人になってもらえれば本当にありがたい」

師匠は―。

“師匠”・石田俊雄さん(74):
「熱心さ、本当にやりたいという気持ちがあれば、こういうふうになっちゃうんだね。若いもんに期待もして頑張ってもらいたい」


信濃町の伝統を守る19歳。職人としての技だけでなくその熱い”思い”も受け継ぎます。

“打刃物職人”目指す・大木島蓮さん(19):
「もっと練習して、ちゃんとした製品、問屋に見せたときに10本中9本は売れるよとなる感じにしたい。石田さんから言われていることをしっかり受け継いで、次の人にまた託せるようにやっていければ、恩返しになるのかな」

長野放送
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