防災システム研究所の山村武彦所長と、記録的大雨の爪痕が残る熊本県内各地を回り、その教訓について考える。木葉川が氾濫するなどした、玉名郡玉東町を訪れ、「早めの避難」で人的被害を出さなかった、高齢者施設などを取材した。
木葉川が決壊した現場の凄まじい破壊力
防災システム研究所の山村武彦所長は「浸水の高さが1メートル以上。柵に絡まっている竹などを見ると、相当な流速、水の流れが速かったのではないかと思う」と話す。

玉東町は一連の大雨で町の中心部を流れる木葉川が氾濫した。木葉川と白木川が合流するエリアでは、公民館や体育館などが水に漬かった。

山村所長は「特に川の合流点だと、それぞれの川が同時に越水する危険性があるので、今回の多分そういう傾向が見てとれる」と話す。

また、木葉川では堤防の決壊も…。白木川との合流点から500メートルほど下流の左岸側が、約50メートルにわたって壊れていた。

山村所長は「まるで怪物が暴れまわった跡みたいな、そんな感じの破壊力だ。雨の量、線状降水帯の恐ろしさ。それがこういう中小河川の決壊にまでつながる、その力。大量の雨が短時間に降ったことを、物語っている」と話す。
施設では浸水前に異変を感じ垂直避難
木葉川が決壊した箇所から約500メートルの場所にある特別養護老人ホーム『葉山苑』を訪ねた。施設は、一連の大雨で浸水被害に遭った。

特別養護老人ホーム・葉山苑の主任兼生活相談員の宮本英郎さんは「(10日の)午後11時ごろから雲行きが怪しいなと思って、入所者を避難させようという話になった」と話す。

8月10日、宿直をしていた宮本英郎さんは、夜勤の職員4人と協力して、まだ浸水する前の午後11時ごろから、1階にいた入所者15人を2階に『垂直避難』させた。

山村所長が「どうして怪しいなと感じたのか?」と尋ねると、宮本さんは「ここは水に弱い地形なので、雨が強い時は回りの田んぼを見ることにしている。そこを見て、田んぼから道路に水が上がってきそうな状況だったので、2階に避難させた」と、当時を振り返る。

停電のリスクがあるエレベーターを極力避け、職員らが車いすごと抱えて、階段を使って避難させたという。

施設は、その後1階部分が1メートル近く水に漬かったが、全員、2階に避難していたため、無事だった。ただ、1階にあったベッドや椅子などが泥水で汚れたほか、駐車場の10台以上の車が水没したということで、この日も、職員らが片付けに追われていた。
「非常に教訓とすべき成功事例」
山村所長は「周辺の異常に気付いた職員たちが力を合わせて、高齢者を車いすごと2階に避難させて事なきを得たと、これは非常に教訓とすべき成功事例の一つだと思う」と述べた。

山村所長は、「夜間の高齢者施設は職員が少なく、避難に時間がかかるので、周囲の異変を察知し、『早めに避難スイッチを入れる』ことが大事だ」と指摘する。

熊本県によると、一連の大雨で県内の熊本市や玉東町など10つの市と町にある92の高齢者施設が浸水被害に遭ったが、人的被害は報告されていない。
(テレビ熊本)