日本時間の8月16日に、6年ぶりの顔を合わせ首脳会談を行った、アメリカのトランプ大統領とロシアのプーチン大統領。
ウクライナとの停戦を巡り、世界中から注目が集まりましたが、3時間近い協議が行われたものの、焦点だった停戦合意には至りませんでした。

ロシア事情に詳しい筑波大学の中村逸郎氏は、会見の様子を見て「プーチン氏の思惑通り」と話します。

筑波大学 中村逸郎名誉教授:
プーチン大統領自身にとっては、まんまと思惑通りに事が進んだ。
世界に向けて自分の立場、自分の正当性を発表する機会を得たということで、非常に自己満足しているんだと思うんですね。
今回は停戦協議というよりも、一言で言えば、米露関係の関係回復、もっと言えば、これまでのトランプさんの言動に対して、釘を刺したということが言えます。
専門家「9対1でプーチン氏の勝ち」
停戦合意には至らなかった今回の会談、『サン!シャイン』のコメンテーターであり、キヤノングローバル戦略研究所・上席研究員の峯村健司氏はどのように見たのか?見解を聞きました。

峯村健司氏:
プーチン氏、うまくやったなと。ほぼ割合でいったら、9対1から9.5対0.5でプーチン氏が勝ったというふうに見えます。
やはりこの「役者の違い」ですよね。もちろんトランプ氏は不動産会社の社長としてはすごく実績はあるんですけど、かたやプーチン氏は長年KGB(ソ連国家保安委員会)でスパイの訓練を受けていたので、会見でどういうふうに表情を消したり、相手に気持ちを悟られないようにしたり、あとは相手の気持ちをどう変えるかという訓練をしてきたと。
会見が終わった後に、ロシアの記者に聞いたら「こちらは完勝だ」と。プーチン氏とトランプ氏が会っている間に「トランプ氏の頭の中を変えることに成功した」と。

――どのように変わった?
最初は「停戦できる」とトランプ氏も自信満々だったのですが、終わったあと、全く「停戦」と言わなくなっている。「和平協議」であると。和平協議とは何かというと、ずっとプーチン氏が言っていた言葉なんです。プーチンが言ったままのことをトランプ氏が言っている、完全にマインドコントロールのような状況ですよね。

今回の会談については、米メディアも「短くて生ぬるい」と称するなど、厳しい反応を見せています。トランプ大統領としては、本来どのような思惑があったのでしょうか。

峯村健司氏:
トランプ氏としては、「停戦にしました、私が戦争を止めて平和を作った」と。さらにもっと言うと、トランプ氏が一番欲しい「ノーベル平和賞」が頭の中にあった。
それがうまくいくと思っていたのですが、やはり“スパイマスター”であるプーチン氏の方が一枚も二枚も上手だったと。
――今回の会談で前進したと言える?
前進…なんですけれども、会って何が決まったかというと、何もほとんどゼロ回答か“足踏み”じゃないですかね。

――当初1対1だった会談が、3対3に変わった理由は?
これは、アメリカ側が3対3にしたと聞いています。実は2018年、トランプ氏が1期目の時に、プーチン氏とヘルシンキで会談をしているんです。そのとき、1対1になってしまったが故に、“スパイマスター”の手に引っかかり、いいようにやられてしまった。
だから今回は、1対1にしないで、ロシアに厳しいルビオ国務長官とウィトコフ特使もついて、なんとか取り込まれないようにやったと。
ゼレンスキー氏に責任転嫁の可能性…今後日本にも影響が
――会談後に行われた共同記者会見では、12分の会見のうち先に話し始めたプーチン氏が8分半、トランプ氏が3分半と半分以下しか話していませんがこれは?
峯村健司氏:
会見で記者が「答えて!」と大声を出しても無視していたじゃないですか。これは大体中身がアメリカにとって良くないときなんです。普通はアメリカは民主主義の国なので、質問は受けるんですよ、フリーに。それを受けないということは、あまり会談がよくなかった、あまり発表したくないと。
そして、プーチン氏が8分半話してトランプ氏が半分以下というのも結構異例で、普通は同じくらいの時間をやるんです。ところが、プーチン氏の完全独演会だったわけです、自分の言いたいことをひたすら言いまくって、で、トランプ氏はちょっとしか言わない。見た感じでも、プーチン氏勝ったなと言えるわけです。

さらに、峯村氏は今後行われるトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の会談で、トランプ氏がゼレンスキー氏に責任転嫁をする可能性があるといいます。

峯村健司氏:
トランプ氏はディール(取引)好きだとよく言われるのですが、正確に言うと“ディールするまで”がすごいんです。熱量もすごいですし、やる気もあるのですが、ディールがイマイチだったり、終わってしまうと急に関心がなくなるんです。
今回のようにあまりうまくいっていないと、自分がうまくいかなかったことをゼレンスキー氏のせいにすると。ですから、今日(18日)ゼレンスキー氏に会いますけども、「俺はここまでやったのだから、領土の割譲も含めて認めろ」という圧力をかけてくるのではないかというのが懸念ですね。
――落としどころ、着地点はどうなっていくのでしょうか?
多分、プーチン氏の頭の中では落とすつもりはないですね、しばらくは。
経済状況はめちゃくちゃ厳しいのですが、プーチン氏としても拳を下ろせない状況になっているので、やはり領土も含めた成果がないと国内にも説明ができないと。
実際、米露で交渉をしている間にも、ロシアはウクライナをずっと攻めているんです。今どちらかというと、形勢はまたロシア有利に傾き始めているので、完全に時間稼ぎをしているところが大きいと思います。(戦争は)私はしばらく終わらないと思います。

峯村健司氏:
これは人ごとではなくて、大国同士、ロシアとアメリカで領土を勝手にあげるみたいなことを決める前例を作ってしまうと、日本も例えば尖閣を巡って中国と何かあったときに、「いいじゃないか無人島なんだから譲ってしまえ」とアメリカに言われたり、適当にディールされてしまうリスクがありますよね。

日本時間の18日、ワシントンで行われるトランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談には、ヨーロッパの首脳も参加するといわれていますが、それぞれの溝を埋めることはできるのでしょうか。
(「サン!シャイン」 2025年8月18日放送)