海と人と本がつながる、泊まれる図書館とは。
壁一面に並べられたたくさんの本。
よく見ると、船や魚など海にまつわる本ばかり。
そして、隣の部屋にはゆったりと本を楽しめるカフェスペース。
さらには、ふかふかのベッドがある部屋も。
ここは香川県東部、瀬戸内海に面する自然豊かな町、さぬき市。
海辺の路地にひっそりとたたずんでいるこの建物は、2023年にオープンした「うみの図書館」です。
図書館から海までは、路地裏を歩いてわずか30秒。
オーナーは地元出身の黒川慎一郎さん。
オープンのきっかけは、当時営んでいたゲストハウスのお客さんのこんな一言でした。
うみの図書館 オーナー・黒川慎一郎さん:
東京から来た方だったんですが、その方がどんな過ごし方をするのかなと聞いてみると「この後、本を持って海辺で読書しに行こうと思うんです」と言っていて、そういう過ごし方すごくいいなと。外の方がイメージする瀬戸内のイメージと本というのが非常に相性がいいんじゃないか。
築60年の古民家をDIYで一からリフォームして生まれたうみの図書館。
置いてある本は2種類で、1つは海や船、海洋生物などを題材にした海にまつわる本。
そしてもう1つが、その名も「漂流文庫」です。
ここにある本のほとんどが、SNSなどを通じて地域の内外から寄贈された、いわば“漂流してきた本”。
現在約8000冊あり、流れついてきた本はまたここから多くの人の手に渡っていきます。
館内にはゆったり本を楽しめるカフェスペースのほかに宿泊施設も。
1人部屋と2人部屋、そして4人部屋の合わせて3部屋。
ところでなぜ、図書館に宿泊施設があるのでしょうか。
うみの図書館 オーナー・黒川慎一郎さん:
図書館って本来は自治体が運営していて税金で運営費が賄われているんですが、ここはあくまでも私設図書館で、どう持続可能な形で運営していくかと考えたときに地域の外から来る方で、この場所いいなと思った方々のお金で運営できるような形にできないかと。宿泊いただいた方の宿泊費の一部を図書館の運営費として捻出するようなモデルを試すことで、図書館がないエリアにでも本に触れる場所がつくれるのではないか。
図書館のない地域の人にも本に親しんでもらいたい。
地元の子どもやお年寄りたちのほか、今では全国から多くの人が好きな本や癒やしを求めてうみの図書館を訪れるように。
本の貸出期間は2年。
本も、借りた人と一緒に新たな旅へと出て行くのです。
うみの図書館の館長、鏑木航河さんも3年前に黒川さんのゲストハウスに長期滞在した際、その思いにひかれて群馬県から移住しました。
今後は全国の飲食店やカフェと提携して漂流文庫の本棚を置いてもらうなど、うみの図書館の魅力をより多くの人に知ってもらいたいという黒川さん。
うみの図書館 オーナー・黒川慎一郎さん:
今うちにある本が明日あるかわからなくて。普通の図書館だと2週間後には返ってくるんですけど、2年後に返ってくるかもしれないし、あるいはここで借りて東京で返してもらったら、もうここには数十年かけないと返ってこない可能性もある。そういった偶然の本との出会いですとか、そういったものを楽しんでいただける場所かなと。
本が人を呼び、思いもかけない出会いにつながる。
うみの図書館の本が、きょうもどこかでまだ見ぬ縁を結んでいます。