2021年度から2024年度にかけて、『子供の学力が多くの教科で低下した』という調査結果が発表されました。
これについて、関西テレビ「旬感LIVE とれたてっ!」では、教育評論家の松本肇さんとコメンテーターで予備校講師の村瀬哲史さんという教育の専門家の実感を交えながら議論。
見えてきた背景は「新型コロナ」による休校や対面授業の中止の影響と、それによる「スマホ・タブレット」の教育現場での急激な普及、そして少子化が進む中で、「必死に勉強しなくても…」という「親の考え方の変化」というものでした。
■小6・中3学力調査 前回の3年前より「大幅低下」
文部科学省が小中学生の代表として、小学6年、中学3年の児童生徒合わせて10万人の学力を調査したところ、前回の3年前より大幅に低下したことがわかりました。
この原因は一体何なのか、中学受験を目指す子供たちが通う塾での代表は「新型コロナウイルス」の影響を指摘しました。
【進学塾クレスタ 岡田尚巳代表】「ひとつはコロナの期間に、休校期間が3カ月程度あったと思うんですけども、その期間、やっぱり授業が止まってしまう。(学習の)総量が決まっているので、追いつかなければならない、基礎的なところが定着しないうちに、『前へ』と進んでいってしまったと」
実際、コロナ禍を過ごした学生たちは、当時の授業をどう感じていたのでしょうか。
【高校1年生】「オンラインだから、ネットの調子が悪かったりとかしたら、先生の話も途切れ途切れだったので、すごい使いづらかった」
【小学5年生】「リモートもいいけど、今の(対面)授業より、わかりにくいかったし、みんなともあんまり会えなかったから、今の方がいい」
一方、文部科学省の調査ではさらにこんな気になるデータも。
小学生の場合、スマホやテレビゲームを使う時間が平均で40分ほど増加、その分勉強時間が少し減っています。
【保護者】「ずっとYouTubeやTikTokを勝手に見ています。仕事をしてる人だと特に多分ほったらかしになる」
【中3・小4の孫がいる祖父】「最近の子供は本や新聞を読みませんね。スマホの力が大きいでしょう」
■教育評論家「すべての科目で下落は驚き コロナが1つの原因」
子供たちの学力にいったい何が起きているのか。
教育評論家の松本肇さんと、日々生徒たちと向き合っている予備校講師の村瀬哲史先生とともに、子供の学力について考えていきます。
松本さんは今回の調査結果を受けて、どのようなことを思いましたか?
【教育評論家 松本肇さん】「1科目ぐらいだったら低下している科目があっても、しょうがないというか、想定内だったんですけども、すべての科目についてこれだけ大幅な下落をしているのが、ものすごく驚きました。
ただこのテストは知識だけではなく、論理的思考力も問う試験問題なので、やはりこの3年間のコロナっていうのが1つの原因になったことは間違いないと思います」
この学力の低下の理由に関して、文科省も「明確には示せない」としていますが、松本さんが考える”二大要因”が、「SNSの通知」と「親の考え方の変化」だということです。
■「スマホの通知」見てしまい勉強中断は「本当にもったいない」と予備校講師
まずは「SNSの通知」について考えていきます。
【教育評論家 松本肇さん】「スマホのコンテンツそのものは、もともと魅力的なので、そこに集中してしまうってのは当然なんですけども、そのスマホに入っているアプリには『更新しました』、『新しいゲームが始まりました』、『メッセージが届いてます』みたいなことが、通知音として流れてくる。通知によって集中力が途切れてしまうということはよくあります」
【青木キャスター】「子供の方から勉強するときにスマホは他のところに置いておこうって、自発的にすることはなかなかいないから、もしかしたら親とが『終わるまではちょっとこっちに置いておこうね』とか、言った方がいいのかなとも思いますけれども、村瀬先生は最近の生徒さんたちを見てどうですか?」
【予備校講師 村瀬哲史さん】「スマホで例えば勉強したり、スマホで(勉強の)動画を見ているときに、通知音が入ってきたら気になって、ちょっと中断してそっち見るっていう子はいるんですよね。例えばうちでは、オンラインでの学習とかをするときはパソコンでさせています」
【青木キャスター】「松本さんの今のご指摘のように通知があると集中力が途切れるってのは一定数あると思いますか?」
【予備校講師 村瀬哲史さん】「あると思いますね。やっぱりどうしても、例えばLINEで誰々から着信が来たってなったら、せっかく勉強やって、”ノッている”のに、『返信せなあかん』って思いがあって、そっち開けてしまったら、今までやってきたのが途切れるっていうのは、本当に勉強ではもったいないんですよね」
■コロナで教育現場に「スマホ・タブレット」普及 子供たちの利用加速
【元フジテレビ解説委員 風間晋さん】「僕が思うのは、この2016年から2021年まででもやっぱり子供たちはスマホ時間が増えて勉強時間が減ってるじゃないですか。だから別に2021年以降の理由だっていうふうには決めつけられないんじゃないのかなと思うんですけど」
【教育評論家 松本肇さん】「まさにこれ、実はコロナが大きな原因になってまして、もともと『GIGAスクール構想』といって、文科省が子供一人一人にスマホやタブレットを渡そうという、そういう事業があったんですけども、もうそれが2020年コロナの登場によって、一気に予算をつけて、すぐに始めなければいけないっていう状況になってしまって、子供たちが意図せず、1台ずつタブレットを持つようになってしまったと。
ただそれを持っていると今度は家でも学習管理用に親がスマホを買い与えざるをえなくなったっていうことで、一気に子供たちのスマホもしくはタブレット利用が加速されてしまった。それが2020年ごろだったんですね」
■よく勉強する子はするが…進む「二極化」
塾に通う小学生が増えているという印象はありますが、それなのに学力が下がるというのはどういうことなのでしょうか。
【教育評論家 松本肇さん】「それは『二極化』だと思います。塾に行ってでも、もしくはタブレットや携帯でも勉強できるコンテンツを一生懸命勉強しようとする子供もいれば、逆にこのコロナが来て、もともと勉強したくなかった子たちはより勉強しなくなってしまった。勉強しなくてもいい環境になってしまったっていうのが大きな原因だと思います」
二極化が進んでいるというのは、予備校講師の村瀬先生も感じますか?
【予備校講師 村瀬哲史さん】「僕は大学受験で高校生教えてるんですけど、基本的に上のクラスの子がそんなに成績が落ちてるとか、考え方が落ちてるとか答案がひどくなったっていう感覚はあんまりないんですよ。
ところが(成績が)上の子はしっかりやり続けてるんですけど、そこと(勉強を)やらない子との差っていうのが、年々大きくなっているなって感じは、本当に体感するんですよね。全体的な底上げっていうのがちょっとこの数年はできてないんじゃないかなって思いはあります」
【教育評論家 松本肇さん】「教育熱心な方はやっぱり中学受験を積極的にしたり、中高一貫教育を一生懸命やって備えるっていうことは本当によく見られますけど。
そうじゃないところは本当にスマホを渡して、放りっぱなしで、子供たちは楽しいコンテンツばかり見ちゃうみたいなんですね」
■「必死に勉強しなくても」親の考え方変化
2つ目、親の考え方の変化とは?
【教育評論家 松本肇さん】「昔は大学さえ行けば”良い企業に入って、大卒として採用されて、いい暮らしができる”みたいなのが1つの幸せの形だったんですけども、今は少子化という状況もあって、多くの人が大学に行ける時代になってしまったんですね。
そうすると大学を出たからといって、必ずしも”良い企業”に就職できるわけでもないし、現実に転職する人も結構多いと。
そうなると、やっぱり我々世代の大人からすれば、必死に受験勉強を頑張って、良い大学を目指すというよりも、それならば、必死に勉強しなくても、むしろ普通の大学で人間性や個人の魅力を磨くほうがいいんじゃないか、という思考をするよう担ってきたと考えています」
予備校講師の村瀬さんは大学受験に関して、ペーパーテストを解く、いわゆる「一般入試」以外の推薦などの入試で合格する受験生が半数を超えていると話します。
【予備校講師 村瀬哲史さん】「衝撃だったんですけど、今まで大学受験のスタイルは、年明け1月にセンター試験、今で言うたら共通テストっていうのを受けて、2月に例えば私立の試験を受けて、また国公立の2次試験を受けてってのが一般的だったんですけど、最近はそうやって年をまたいで受験する一般受験で入る子が、受験生の5割下回っているんです。
つまり年内に推薦などで決まる子の方が、割合として多くなっている。だったらやっぱり子供らからしても、『いや、そこまで勉強せんでも、やっぱりも早めに決めたいな』、親も『それはその方がいいんちゃうか』とそれを許容する流れはできているような気がしますね」
■予備校講師・村瀬先生の訴え「勉強も楽しいんですよ、本当に」
実際に今回の文科省の調査でもこんな結果が出ています。
中学3年生の子を持つ保護者への質問「学校生活が楽しければ良い成績にこだわらないか」という質問に対し、「こだわらない」が50%を超えたということです。
さらに「保護者の影響を受けやすい」というデータもあります。
テレビゲーム、SNS動画等の視聴時間、これは保護者が長いと子供も長いという結果があるそうなんです。
そして家で保護者と勉強の話をする子供は勉強時間が長いということです。
教育評論家の松本さんは、「保護者の影響受けやすい」という点はどうお考えですか?
【教育評論家 松本肇さん】「お恥ずかしいんですけども、我が家に関して言うと、子供と一緒に勉強してますので、勉強時間はそこそこ楽しくやってます。もう早々と大学も決まっちゃったので、やり方間違ってなかったんだなとは思ってますけど…」
【青木キャスター】「『勉強しろ、勉強しろ』って言いながら、親がずっとスマホいじってるのか、『一緒に勉強しよう』って、リビングで座って本読むのかで全然違う。やっぱりそういう姿を子供も見てますからね」
【予備校講師 村瀬哲史さん】「一言だけ。やっぱりスポーツも楽しいでしょうし、部活も楽しい。例音楽も楽しい。いろんな楽しいものいっぱいあるんですけど、本当に勉強も楽しいんですよ、本当に。だからそれを僕らも伝えたいし、そういうのをわかった上でいろんな進路選択をして欲しいなという思いがあるんで。勉強もやってね!」
(関西テレビ「旬感LIVE とれたてっ!」2025年8月5日放送)