福井県内の魅力を再発見する「小旅」のコーナーでは今回、坂井市三国町の旧岸名家を紹介します。元材木商の住宅だった日本家屋は、北前船による商いで栄えた港町・三国の文化を今に伝える展示施設となっています。
古い町並みが残る坂井市三国町北本町。その通りにたたずむのが、旧岸名家です。江戸時代後期に建てられ、昭和30年頃まで、材木商を営む岸名家が代々住んでいました。
その後、住人がいなくなりそのままになっていましたが、昔ながらの建築様式が残るこの家は港町三国の文化を伝える展示施設に生まれ変わり、21年前から一般公開されています。
建築様式は三国の商家に多い「かぐら建て」。店舗スペースの後ろに住居スペースがある形になっています。
人が1人やっと入れるような狭い入口。これは「蔀戸(しとみど)」といって、閉店時に店の商品やお金が盗まれないために使われていたもの。店を営んでいた当時は毎日、開店前に入り口を開け、閉店後に閉めていました。
貴重品を入れて移動することができる車箪笥も展示されています。水害の際には、この箪笥をひきながら避難したようです。
江戸から明治初期にかけて箪笥が作られていた三国。船が沈んでも大切な財産を守れるよう、海に沈まない作りをした船箪笥も見ることができます。
縁側では、江戸時代後期に日本庭園に取り入れられた仕掛け「水琴窟(すいきんくつ)」を楽しめます。
竹筒に耳を寄せてみると、軽やかに水が跳ねる小気味よい音が聞こえてきます。
2階の一室には、岸名家の初代当主が三国町内に立ち上げた俳諧の拠点「日和山吟社」が再現されています。
日和山吟社は俳諧の愛好家たちに引き継がれてきましたが、やがて継ぐ人がいなくなり、10年ほど前には行われなくなったということです。
北前船の時代、商いで栄えたかつての港町三国の面影、時代を超えて、今もひっそりと息づいています。
<旧岸名家>
えちぜん鉄道三国駅から徒歩10分