今回取り上げるのは、自分で考え抜く力を育む大学教育の現場です。

皆さんは知的財産=知財という言葉を聞いたことがありますか?

人が考え生み出した新しいアイデアや物のことで、特許や著作物、商標などがこれに当たります。

この知財に関する日本のランキングは2007年の4位がこれまでの最高順位で、現在は4年連続で13位となっています。

国も2035年に世界4位に返り咲くことを目標に、2025年に計画を発表し、その動向が注目されているんですが、この知財に関する教育の第一人者が実は鹿児島の大学にいるんです。

一体どんなことを教えているのかそのゼミに潜入しました。

知財学習の第一人者はこの大学にいました。

第一工科大学の工学部長、満丸浩さんです。

第一工科大学・満丸浩工学部長
「(紙)10枚でどれだけ高い塔を建てられるか。破ってもいいし、もみくちゃにしてもいい」

満丸さんの講義。

学生たちに出したお題は「ペーパータワー」づくり。

ハサミやテープといった道具を一切使わずに、10枚の紙をひたすら高く積み上げるというものです。

学生
「やばい、やばい!」

知財学習と聞くと、なんだか難しそうな講義を連想してしまいますが、満丸さんが学生たちに意識づけるのは「考え抜く」力です。

満丸浩工学部長
「こっちは大きい物から細い物にということで発想的にいい。こっちは作る前のビジョンがあったのかなという気がする」

この日、満丸さんは東京にいました。

全国から集まった高校の先生たちを相手に知財学習の極意を語りました。

満丸浩工学部長(東京の講演)
「課題を探求し解決する力、自ら考え行動する力」

鹿児島市出身の満丸さん。

元は、電機メーカーの技術者でしたが、若者たちに「考え抜く力」を伝えるために県内の工業高校の校長を歴任して、現在に至ります。

知財学習の指導マニュアルづくりにも貢献して、国から知財功労者表彰も受けました。

満丸さんが学生たちに教えるのは文系も理系も関係ない、「発想力の豊かさ」です。

満丸浩工学部長
「(書き込む時間は)5分間ね」

みんなで知恵を出し合う「ブレインストーミング」。

満丸さんは限られた時間の中でひたすらにたくさんのアイデアを出す、質より量の発想力を学生たちに鍛えさせます。

満丸浩工学部長
「自分で考え抜くという訓練をしておかないと、正しいものは生まれてこない」

こちらの班のテーマは「風呂掃除」。風呂掃除に何を用いたら画期的か、思いついたワードをひたすらに書き連ねてグループ分けします。

学生
「掃除道具の中で出てきたのが『ロボット系』、次に出てきたのが『液体系』、『手動』は靴下式のブラシとか手袋の掃除用具」

満丸浩工学部長
「自分が思っていたよりもはるかにたくさんアイデアが出たでしょう。みんなで考えることも非常に大切」

満丸さんの研究室のゼミ生は、4年生になると大きな挑戦をします。

自分の発明やデザインを国が主催するパテント=特許のコンテストに出すのです。

満丸ゼミ生(4年)・森秀星さん
「米をとぐときに不便が多いと思った。自動米とぎ機を考えようと思った」

満丸ゼミ生(4年)・久米村謙介さん
「災害時の空き缶の分別装置を研究のテーマにしている」

ゼミ生たちが考え抜いたテーマですが、満丸さんの檄が飛びます。

満丸浩工学部長
「データを示して。国の方針とか法律とかデータを示さないと。根本的なところで『やらなくてもいいのでは』となるとまずい」

どんなにユニークな発想でも、データに裏打ちされた社会のニーズが大切と満丸さんは考えています。

この日はゼミ生のOBが1年生たちの講義に招かれました。

2年前に卒業した川元亮真さんです。

実は川元さん、このコンテストで優秀賞に輝き、特許まで取得しました。

第一工科大学OB・川元亮真さん
「ニュースでベランダから幼児が落下する死亡事故があって、その落下事故を防ぐ方法は何かないかと思って」

川元さんが特許を持つ「転落防止用手すり」。

こちらがその試作品です。

川元さん
「(子供が)ここを掴んだ時、ここにボタンが付いていて、ボタンに触れることで音が鳴って、音が保護者に聞こえて危険を知らせる発明」

シンプルな構造ながら社会的なニーズを捉えた発明品です。

川元さん
「知的財産や特許を勉強することで自分に対する自信がついた」

この日から4週間後、4年生のゼミ生たちが再び満丸先生の元を訪れました。

満丸浩工学部長
「米とぎ機をなぜやるか、データを教えて」

森さん
「アンケートが1万人。どの年代でも8割以上の人が毎日1回以上(米飯を食べている)」

満丸浩工学部長
「2007年から2022年まで取っているんだ。けっこう長く取っているデータですね」

9月が締め切りというパテントコンテスト。

研究は着々と進んでいるようですが、その内容は審査結果がでるまで見せられないそうです。

森さん
「いろいろ試行錯誤して、いろいろ考えて出そうと思っている」

満丸浩工学部長
「自分で考え抜くとか、一歩前に踏み出すとか、そういう若者が育っていくことは、世界で日本を背負っていく人材が増えていくということで 頼もしく思っている」

自分の頭で考え抜く。

そして一歩先の未来を切り拓いて欲しいと、満丸さんは今日も学生たちを前に教壇に立ちます。

鹿児島テレビ
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