著書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』が話題の文芸評論家・三宅香帆さん(31)が7月22日、故郷・高知市の夏季大学に講師として招かれ、講演を行いました。
(三宅さんの講演)
「皆さんの前に、もしかしたら、文芸評論家という活動をしている人は、もう現れないかもしれないぐらい、ちょっと“レアポケモン”な仕事なので、皆さんに文芸評論家という仕事があるんだなってことだけでも今日は覚えて帰ってもらえたら」
2024年に出版した『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は、誰もが思い当たる節のあるタイトルの問いかけが、忙しい現代人の心に響き、30万部を超えるベストセラーになっていて、新書大賞にも輝きました。
(三宅さんの講演)
「自分の知りたいことを知りたいから、インターネットで検索するみたいに本を読もうとするのに、本って自分の知りたいこと以外も善くも悪くも書いてあるものなんです。だから知りたいことを知りたくて図書館で借りたり書店で買ったりしたのに、それ以外のいらない情報も入ってきて、なんかちょっとまどろっこしいと本は思われているんじゃないかと思うんです。つまりノイズが多い。『ノイズが多くてうるさいな』と思われてしまうのが、働いていると本を読めない理由なんじゃないかと私は思っているんです」
「本当に面白い本は人生を狂わせちゃうぐらい刺激的なものなんじゃないか。今までの自分の価値観が変えられちゃうぐらい、それぐらい面白い本が本当に人に薦めたい本だなと思っているんですね」
高知での小学校時代から本を読むことが大好きな子供だったという三宅さん。高知学芸高校を経て京都大学で文学を学んだ後、東京の会社に就職しますが、2022年に文芸評論家として独立しました。
三宅さんが今、力を入れているのがYouTubeでの情報発信です。
名物企画「三宅がゆく」では、本屋さんに入ってどうやって本を選ぶのか、普段、読書をしない人の参考になればと、全国の書店を本人が訪れ紹介しています。
文化庁の最新の調査によれば、1カ月に1冊も本を読まない人の割合は6割を超えています。本を読まない人の方が多い今の時代に、なぜ読書が必要なのか。三宅さんは本を読むことで養われるのは自分とは異なる立場や考えの人たちへの想像力だといいます。
(三宅さんの講演)
「例えば他人を見ていて『なんでこんなことしたんだろう』『なんでこんなこと言うんだろう』と思う人が結構いたりする。でも、そういう人をよくよく知っていくと、その人にはその人の合理性があったんだ、その人はそう言うしかなかったんだ、そうするしかなかったんだ、という“その人なりの合理性”を知ることがあったりする。その人の合理性をどうやって理解すればいいかというと、小説を読んだりだとか全然違う立場の人のことを想像する、ノイズを普段から入れておくと、理解できる素地が生まれてくる」
講演を聞いた学芸高校の3年生は「同じ学校の先輩が活躍していて自分も頑張ろうと思った。自分に興味のないことにも興味を持っていこうと思った」と話していました。
月5本の連載を抱え新刊も3冊予定している中でテレビ番組にも出演するなど、さまざまな形で読書の魅力を発信し続けている三宅さん。
「日本は『みんな同じ意見を持ってなきゃいけない』『みんな同じ空気の中でいた方がいい』という圧が強いと思っています」と言います。
現実社会で人間関係のしんどさに疲れた時に本の世界に救われた自らの経験も踏まえ、「本を読んでいたら『別に“個人”でいいんだな』とか、『人と違った意見を持っていいんだな』とか、ある意味で無理に人とつながろうとしない、寂しいと思わなくていい、そういったプラスの面を文芸とか批評で伝えられるんじゃないか」と話します。
インターネット・SNS全盛の時代、自分らしくありながら、どう他人とつながるのか。古くて新しいこの問いに、高知が生んだ新世代の文芸評論家が向き合っています。