盤石の「組織戦」“フルスロットル”でスタートも

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参院選宮城選挙区で自民党が擁立したのは、県議19年の実績を持つ新人・石川光次郎氏だった。
公示初日、石川氏が訴えたのは「政権交代の可能性なんてつくっちゃいけない」という強い危機感。政権与党の一角として、宮城の議席を奪還することが至上命題だった。

小泉進次郎農水省も応援に
小泉進次郎農水省も応援に

応援には村井知事と県内全ての市町村長が顔をそろえ、自民党が誇る組織力をフルに活用。小泉進次郎農水相、石破茂首相、小林鷹之元経済安保相といった党幹部も相次いで駆けつけ、陣営は「重厚な布陣」で一丸となって戦った。
石破首相は仙台駅前で「宮城のことを知り尽くした石川光次郎。新しい日本を、この宮城からつくっていく」と力を込めた。

組織への配慮「迷いがあった」

石川氏の政治スタンスは“現場主義”。19年間の県議としての経験を土台に、「地方から声を上げ、自民党を変えることが政治を変えることだ」と繰り返し訴えてきた。

公示前は自民党改革を訴える場面もあった石川氏。しかし、公示後は発言が控えめだった。
選挙戦を終えた本人に質問をぶつけると、まず答えたのは、続々と応援に入る党幹部や関係組織を前に、自分が自民党改革を強調していいのか、という迷い。
また、公示前には、「お前に何ができるんだ」と新人の弱みにつけこんだ野次を聴衆から飛ばされることもあり、そうした経緯が影響したと本人が打ち明けた。

真面目で勉強熱心で、県議会自民会派のエースとして慕われた石川氏は、今回の選挙戦でも有権者に対して実直であろうとするがゆえに、迷いが生まれ発するメッセージが弱まった。
SNSに代表される「短く、分かりやすく」で台頭した新興勢力と、石川氏のスタイルは対極にあったのかもしれない。

保守票の分裂、SNS発信の遅れ…重なった“想定外”

ローレンス綾子氏 若年層を中心に支持を広げた
ローレンス綾子氏 若年層を中心に支持を広げた

石川陣営の最大の誤算は、「保守票」の分裂だった。
当初は立憲民主党の現職・石垣のり子氏との一騎打ちが想定されたが、選挙戦が始まると参政党のローレンス綾子氏が急伸。若年層を中心に支持を広げ、石川氏と保守票を分け合う構図となった。

また、SNSの活用も後手に回った。選挙中盤から動画投稿や短尺の政策発信を強化したが、「スタートが遅すぎた」との声も陣営内からあがった。

従来型の組織戦に加え、SNS戦略や街頭での可視化が重視される中、「旧来型の戦い方では限界があった」とあるスタッフは話す。

吹き荒れた“逆風” 自民党離れの民意

党議員も自民党への逆風を感じていた
党議員も自民党への逆風を感じていた

「今回は追い風ではなく、引き波のような雰囲気だった」そう語ったのは、自民党の森下千里衆議院議員だ。
また、党政調会長の小野寺五典議員は「有権者がいろんな選択肢を見ていた」と話し、小林鷹之元経済安保相は「厳しい風が吹いていた」と危機感をにじませていた。

党内の「政治とカネ」問題や政権への不信感は根強く、石川氏がどれほど現場で尽力してきたとしても、その逆風を跳ね返すのは容易ではなかった。

極限の戦い、削られた体と声 そして最後の“吹っ切れ”

最後の訴えに臨む石川氏
最後の訴えに臨む石川氏

灼熱の選挙戦。石川氏は「体重が7キロ落ちた」と明かしていた。最終盤にはスタッフに「腹に力が入らねんだよ」と漏らす場面もあった。

それでもマイクを握り続け、迎えた最終日のラスト演説。石川氏は、それまでの慎重な言葉選びを振り払うかのように、本音を語り始めた。

石川光次郎氏:
今、我々が所属している自由民主党、国民の皆様と乖離をしている。それが政治に対する国民の不信につながっている。おかしいものをおかしいと言えなくなったら、世の中終わりなんです。誰かが言わなければ変わらない

熱気に包まれた演説会場。ようやく“吹っ切れた”候補者の声に、聴衆は耳を傾けた。
だが、その変化が有権者全体に届くには、時間が足りなかった。

「報いられなかった悔しさ」石川氏の言葉ににじむ想い

投開票日、石川氏は敗戦を静かに受け止めた。

石川光次郎氏:
皆さま方の大きな、大きなご厚情に対して報いることができなかったという悔しさはありますけれども、皆さんと一緒に一つになって、この戦いを進められたことは、私にとって大きな財産だと思っています

19年間積み上げた地方政治の経験、そして組織の力を背景にした正攻法の選挙戦。
それでも勝てなかった、「自民党への逆風」と「組織のジレンマ」が浮かび上がった選挙戦だった。

仙台放送

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