芥川賞と直木賞の選考会が16日に開かれ、両賞とも27年ぶりに「該当作なし」と発表された。候補は芥川賞4作、直木賞6作だったが突出作がなく、選考委員は「もう一歩」「票が拮抗(きっこう)」と説明した。この決定はSNSで話題となり、書店から売上減の痛手を懸念する声が上がっている。
選考委員「突出して票を集めた作品がない」
16日に発表された芥川賞と直木賞は両方とも「該当作なし」という異例の結末だった。影響は様々なところに広がっている。

17日のテーマは「文学界に衝撃…なぜ『ダブル該当作なし』?ソレってどうなの?」だ。
16日、午後4時から始まった第173回芥川賞・直木賞の選考会。約2時間後に、芥川賞の「該当作なし」が発表された。
さらに2時間が経った午後8時頃、直木賞も「該当作なし」が発表され、会場にいた100人を超える報道陣からはどよめきの声が上がった。
両賞とも「該当作なし」は1998年以来、27年ぶりの出来事だった。

今回のノミネート作品は、芥川賞が4作品、直木賞は6作品だ。該当作なしの理由について、それぞれの選考委員はこう話している。
芥川賞選考委員・川上弘美さん:
新しい試みなどもとてもたくさんあったが、もうひと踏ん張りしてほしいということだった。

直木賞選考委員・京極夏彦さん:
2時間半、長くても3時間で終わる選考が丸々4時間かかった。議論が白熱した。レベルが拮抗(きっこう)していて、突出して票を集めた作品がなかった。
ネット上では「該当作なし」がトレンドワード入りする事態になった。街のみなさんは、どう受け止めたのか。“本の街”、東京・神保町で話を聞いた。
20代:
一つもないのはびっくりしました。たくさん応募があるだろうに、その中から本当に一つもふさわしいものなかったのか…かなり驚いた。
60代:
両方(該当なし)はちょっとびっくり。「甲乙付けがたい」と話していたが「そういうものなのかな」と思うが…。
60代:
拮抗してたなら全部選べばよくないですか?だめですか。賞をきっかけに読むことがあると思うので、これだけ本離れがあるのに、もっと積極的に選んでもよかったんじゃないか。賞の威厳は別として、と思うことはありますね。
直木賞の売上がないのは大打撃
青井キャスター:
柳澤さん、「該当作なし」どう思いますか?

SPキャスター柳澤秀夫さん:
僕は良かったと思います。芥川賞、直木賞というのは一定のレベルというか、風格が問われると思うんです。そこに達しなかったということで、これから先、逆にありがたみが増すんじゃないですかね。

青井キャスター:
賞の威厳という話ということですよね。
ただ一方で、出版業界からは悲鳴が上がっており、専門家によると、芥川賞と直木賞が作られた背景には本の販売促進もあったといいます。
書店では毎回発表後にポップなどが作られ、大々的にPRするのが恒例の風景となっている。本離れがささやかれる出版業界に貢献しているわけだ。
ある書店の公式Xには「正直に言います。芥川賞、直木賞の売上がないのは、大打撃ですよ。代わりに何ができるか考えなくては」と、切実な声が投稿されていた。
青井キャスター:
投稿した未来屋書店の工藤さん、実際にどのくらい売り上げ減を見込んでいるんでしょうか。
未来屋書店・工藤由美栄さん:
お店も本部も発表を待ちながら売り場を作ると待ち構えていたが、該当作なしだったのですごく残念だった。10%ぐらいが最大で減ってしまう見込み。「該当作なし」を逆に力にして、本の楽しさなどを広げていけたらいいと考えています。
17日、各店舗では「該当作なし」の張り出しと共に、ノミネート作品が並んでいた。また別の書店でも、同じような打ち出し方でPRしていた。
影響が大きいのが分かっていながら、なぜ今回ダブル該当作なしだったのか。
青井キャスター:
文芸評論家で明治大学教授の伊藤氏貴さん、教えてください。

文芸評論家 明治大学文学部・伊藤氏貴教授:
やはり世間の関心が一番集まるのがこの2つの賞。一つの文学賞に対して、応募は多分2000くらい。「書きたい」という潜在的な書き手は減ってないと思う。選ぶ基準は、どちらの賞も相対評価ではなく、絶対評価で選んでいると思うので「作品を本当に世に残すかどうか」という絶対的な基準で選んだときに、今回の委員の方々のお眼鏡にかなう作品がなかったということだと思う。
青井キャスター:
番組で今回ノミネートされた作者の皆さんに取材を申し込んだところ、直木賞候補「ブレイクショットの軌跡」の作者・逢坂冬馬さんが取材に応じてくださいました。率直な心境をお聞きください。

逢坂冬馬さんのコメント:
もとより、審査は全て選考委員の皆さまにお任せし、いかなる結果であれ己の糧として受け入れる、というのが自分の姿勢であり、今回の結果を受けてもその考えに変わりはありません。
他方で、直木賞の設立以来の目的には「出版界の振興」があり、受賞作の店舗展開という機会を逃した書店員、出版関係の皆さまの悲しみの声を聞くことだけが大変辛く感じられます。
今回の直木賞の「該当作なし」という選考結果は、多くの候補作品が拮抗し、受賞作品を選びきれなかったため、と聞き及んでおります。
この「拮抗」という結果を受けて、読者の皆さまが多くの候補作を手に取り、それぞれに各作品に対する検討を試みるということが起きれば、「該当作なし」という結果をより意義深いものに変化させることができると期待しております。
下半期の選考会は年明け、次回の芥川賞・直木賞に期待しよう。
(「イット!」7月17日放送より)