秋田県内では2023年、70人もの人がクマに襲われるなどしてけがをした。過去最悪の人身被害であり、まさに「異常」な事態だった。あらためて被害を振り返るとともに、被害を防ぐためにはどうすればいいのか、課題を考える。
2023年は”市街地”での被害が目立った
2023年、県内でクマに襲われるなどしてけがをしたのは70人。過去最悪の数字だ。
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東京農業大学・山崎晃司教授:
ことしの秋田で特徴的だったのは、例年と比べて出没が低標高地、つまり集落に近い所で起こっていることと、例年に比べて、やはりメスや親子グマの出没と捕獲が多かった
![2023年のクマの動きを分析](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/d/e/700mw/img_de6b25e53fe0584efb960457c724be09259915.jpg)
クマの生態に詳しい東京農業大学の山崎晃司教授がこう分析するように、2023年に特に目立ったのは、住宅の敷地内や市街地での被害だ。
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10月9日、秋田市新屋寿町の住宅地で男女4人が相次いでクマに襲われ、クマから逃げようとした男性も転倒してけがをした。現場は、運転免許センター裏の住宅が立ち並ぶ地域で、近くには小学校や保育園がある。
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それから10日後の10月19日には、北秋田市鷹巣の「中心市街地」にクマが出没。小学校の近くやバス停、菓子店の敷地で、高校生を含む男女5人が被害に遭った。小学校は急きょ休校の措置を取ったほか、近くの高校は部活動を中止し、下校する生徒たちをバスで最寄り駅まで送り届けた。
まさに「異常」といえる事態だった。
![「5人目の被害者」となってしまった男性は、約1時間前、AKTの取材に応じていた](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/f/1/700mw/img_f18f3fc76c9b0a00ae8a9e174dc10708197131.jpg)
北秋田市で「5人目の被害者」となってしまった男性は、そのほかの4人がクマに襲われたあと、4人を襲ったとみられるクマがひそむ敷地内で秋田テレビの取材に応じていた。
「走ってはいけないのはわかるが…」
湊屋啓二さんは、北秋田市の菓子店「鷹松堂」の代表を務める。
![AKT取材時の湊屋啓二さん](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/d/d/700mw/img_ddc65ed70d8748aaab4a0dd54a482503206479.jpg)
湊屋啓二さん:
若い女性が、すごい「ぎゃー」という声を出しながら走って行ったんですよ
こう答えた約1時間後、湊屋さんは「5人目の被害者」となってしまった。
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記者「大丈夫ですか?」
湊屋さん「頭を結構やられてしまいまして」
記者「電話は大丈夫ですか?」
湊屋さん「大丈夫です。もう気力が充実している」
4人を襲ったあと、クマは鷹松堂の敷地内の車庫に入り込んだとみられる。
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あれから2カ月。湊屋さんのもとを訪れると、頭や顔などに傷跡が残っていた。
あの日、湊屋さんは外出しようと車庫のシャッターを開けた。するとそこには、体長約1.5メートルのクマの姿があった。
![入り口シャッターのすぐ近くに…](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/f/f/700mw/img_ffdeabbb6061fd738e7268fadb580a0d171949.jpg)
湊屋さんは「やられるなと直感で思った」という。走ってはいけないのはわかるが、反射的に一目散に建物に向かって走った。
クマは、逃げようとする湊屋さんを追い越して目の前にやってきた。
![クマは、倒れ込んだ湊屋さんをさらに襲った](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/c/e/700mw/img_cec718997f5d288b00dfd01c4e3971e3181089.jpg)
左前から襲われ、体が反転して倒れ込んだ湊屋さんにクマがさらに襲いかかった。
湊屋さんは「興奮しているクマと顔を合わせないよう、反対を向くことに必死だった」と当時を振り返る。
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湊屋啓二さん:
全然動けない。背中などをつかまれて身動きできず、(頭の横で)かまれているのか、引っかかれているのか分からないくらい、すごい声で(クマが)「うぉー」と。俺は死ぬんだなと思った
体だけではなく、心にも深い爪痕を…
攻撃が緩んだ隙(すき)をみて、再び逃げた湊屋さんは、追ってくるクマを何とか振り切って建物の中に逃げ込んだ。
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湊屋啓二さん:
鏡で顔を見た。そしたら頭の皮がめくれて、頭蓋骨が開いていた
タオルで頭を抑え、止血しながら救急車を待ち、ドクターヘリで秋田市内の病院に搬送された湊屋さん。九死に一生を得たものの、退院後の生活はこれまでと大きく変わった。
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湊屋啓二さん:
傷はくっついているが、神経が切れたのか、痛みがある部分と感覚がなくなっている部分とはっきりと分かれている
湊屋さんは「今も頭皮が引っ張られているような感覚がある」と話す。そして影響は、被害を受けた人の体に及ぶものだけではないようだ。
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湊屋啓二さん:
実はまだ、妻が私以上にショックが大きかったみたいで、店を開けられていない
「クマに襲われる」ということは、体にはもちろん、心にも、そして身近な家族にも深い爪痕を残していた。
一人一人が“自分事”として捉える
秋田県は、「いつでも、どこでも、誰でも、クマに遭遇する可能性がある」と異例の呼びかけを続けている。
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一方で、私たちの日常生活の中にクマが当たり前のように入り込んでいて、個人では被害を防ぎようがないのが現実だ。山崎教授は、次のように指摘する。
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東京農業大学・山崎晃司教授:
最近そば畑にクマがよく出てきていたが、放棄せずに刈り取りをして、クマが利用できないようにするなど、人間の食べ物の味を覚えないようにするための努力が必要。その上で行政がゾーニングをして、クマの数をコントロールしていく。両方大切だと思う
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クマと対峙(たいじ)してしまったとき、私たちはどうしても力ではかなわない。
「被害は来年も続く恐れがある」と指摘する専門家が多い中、一人一人が“自分事”として捉え、できることをする。その上で行政と連携し、地域全体で被害防止に取り組む必要がある。
(秋田テレビ)