不登校の子供たちの“居場所づくり”を目的に、名古屋市は小中学校へ“校内フリースクール”の設置を進めている。しかし、“制服必須”や“利用予定を月初に提出”といった『謎ルール』が各学校で作られていることが分かった。制度だけが先行している実態もあり、利用をためらう要因にもなっている。

■不登校の小中学生は過去最多に…“居場所”となる民間フリースクールに「課題」

名古屋市守山区。平日の昼間に、子供たちが勉強しているのは、お寺にあるフリースクール「てらこやさん」だ。

不登校などの小学3年生から高校生まで、10人ほどが通っている。

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決められた時間割はなく、平日の午前9時から午後3時まで、好きな時間に好きな頻度で通うことができる。

小学4年 男の子:
「ここは結構自由なところが多いからいい」

小学3年 女の子:
「行ける日は午前中だけ学校に行って、午後からてらこやさんに来たいなって思ってる。みんなが優しいから、行きたくなる」

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お昼は、みんなで買い出しに行って、力を合わせてご飯を作るようにしている。

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不登校の小中学生は、全国で34万人を超えて過去最多となり、名古屋市でも2023年度に5888人と、4年間で倍増している。フリースクールは、こうした子供たちの“居場所”となっているが、課題がある。

『てらこやさん』を運営する児玉匡信さん:
「運営費は課題かなと。3月までは月3万円でやっていたところが、(4月からは)月4万円に変わったんですね。人件費がかかってくるっていうところが、値上げさせていただいた背景」

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フリースクールは無認可のため、行政の補助が無い。運営費の大部分を利用料に頼るしかなく、保護者の負担が大きいことが課題となっている。

娘が『てらこやさん』に通う母親:
「やはりフリースクールの費用は高額ですので、月々払っていくのはとても苦しいです。補助金がいただけたら家計も助かりますし。金銭面で悩んでいる方もいらっしゃると思うので」

■名古屋で設置すすむ「校内フリースクール」今後は全中学校へ

こうした中、名古屋市が進めている取り組みが「校内フリースクール」だ。

東区の桜丘(さくらがおか)中学校。教室の中にあったのは和室だ。

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窓際にはホワイトボードで仕切られた個別の学習スペースもあり、床にはじゅうたんが敷かれている。ここが、いわゆる“校内フリースクール”だ。

桜丘中学校の武藤晃嗣校長:
「教室の雰囲気ではない、“自分なりのペースも作れるしリラックスもできる”というのを心掛けて、この部屋にしています」

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不登校の子供たちのために、教室以外の場所に居場所を作る取り組みで、市は2022年度に30の中学校に設置した。

桜丘中学校の武藤晃嗣校長:
「基本的には自分のペースで自分の学びたいものを見て、自分で学ぶんですけども、それぞれみんなの時間や、自主学習できるもところもあれば、美術とか子供に選んでもらえればいいかなと」

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名古屋市は、市内すべての中学校に「校内フリースクール」を整備し、小学校でも試験的に5校に設置するとして、2025年度に3億6500万円の予算を計上した。

■「月初に利用予定を提出」など“謎ルール”が明らかに

“子供たちの居場所づくり”が進んでいるようにみえるが、校内フリースクールには、『謎ルール』ともいえる大きな問題があった。

名古屋市内に住む安藤亜衣(あんどう・あい 44)さんは、「校内フリースクールに行ってすごく充実してます、という話は聞いたことがない」と話す。

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安藤さんには3人の子供がいるが、このうち2人が不登校で、小学6年の向日葵(ひまわり)さんがフリースクールに通っている。

安藤さんの娘・向日葵さん:
「ママの今日のさ、着物の色合い、ネギトロみたいだね」

安藤亜衣さん:
「ネギトロみたいだね」

安藤さんは当事者の1人として、不登校の子供たちの保護者を支援する団体を立ち上げた。「校内フリースクール」について保護者から意見を集めると、理解に苦しむ“謎ルール”が明らかになったという。

安藤亜衣さん:
「友だちとは一緒に行けないとか、事前に予約しないといけないとか。だからちょっと難しくていけないよとか。“とりあえず作った”感になっちゃっているんじゃないかな」

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東海テレビが複数の中学校を取材すると、ほかにも様々な“謎ルール”があった。

・校内フリースクールから、通常のクラスへの行き来を禁止
・月の初めに“1カ月分の利用予定”の提出が必要
・制服の着用必須
・当日の連絡では使用を認めない など

教育委員会は、ルール作りをそれぞれの中学校の校長の判断に委ねていて、結果、ばらばらの“制約”だらけになっていた。

様々な特性がある不登校の子供たちにとっては、大きなハードルとなり、1度利用して来なくなる生徒も少なくないという。

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安藤亜衣さん:
「一番みんなが言うのは『制服がないほうがいい』って。子供も制服を着させられるのは、またそれで足が重くなる。“大人にとっていい”ルールじゃなくて、子供たち目線で、子供たちにちゃんとヒアリングして、せっかく作ったのだからいい場所になってほしいです」

■市教委は“ルール”をほとんど把握せず

名古屋市の校内フリースクールの実態について、広沢市長を直撃した。

Q“子供に合った運用”ができていないのでは?
広沢一郎名古屋市長:
「学校によって濃淡があるのは、これは否めないところです。まずは場所を作るということをやっていますので、そうするとやはり学校によってその対応が十分に取れたり取れなかったり。一定程度仕方がないところだという風に認識していまして」

広沢市長は、「校内フリースクールを“増やす”ことを優先してきた」と説明した。

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「謎ルール」については…。

Q“事前の利用予定”ハードル高いとの声も
広沢一郎名古屋市長:
「なるほど、それもそうだと思います。通常の学級に通うには色々なルールがある。学校内の“居場所”とすると、そこをどこまで踏襲して何を変えていくか、これもね、一概にはぱっと決めらない問題なんです」

Q制服ルールについては
広沢一郎名古屋市長:
「ああこれどうなんでしょう。どれくらいあるんですかね、それね。私自身はまだそこまで把握していないので、局の方は知っているかもしれませんけども」

名古屋市教育委員会の担当者:
「まだ把握はできていない」

広沢一郎名古屋市長:
「はい。じゃあその辺の把握も含めてですね。このあたりはなるべく慎重にですね、やっていくべきかなと思いますね」

Qルールの“実態把握”は
広沢一郎名古屋市長:
「細かな実態調査はこれどうですかね」

名古屋市教育委員会の担当者:
「やっていないです」

広沢一郎名古屋市長:
「なるほど」

それぞれの学校が決めている“ルール”を、ほとんど把握していなかった。

広沢一郎名古屋市長:
「全ての学校で何らかの調査のようなことをして、前に進めるべき時かもしれませんね。アンケートは割とそんなに時間がかからずできると思いますので、そういうことは早めにやってきたいと思いますね」

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実際にルールを設けている中学校に、話を聞いた。

名古屋市立のA中学校では、通常クラスとの行き来を禁止している理由について、「嫌いな教員や苦手な授業だけ受けないなど“逃げる場所”になってはいけないから」と答えた。

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また、1カ月分の利用予定の提出が必要な理由については、「学校生活に必要な集団生活に戻れるよう、計画を立てられるように」という理由だということだ。

■成長して様々な選択をしていく子供たちのために

名古屋市守山区にあるフリースクール「てらこやさん」を利用する、中学2年のはっとりくん。

小学4年生から不登校で、一時は「校内フリースクール」の利用を検討したが、その実態を知り、取りやめたという。

はっとりくんの母親:
「(担任から)『校内フリースクールはコミュニケーションをするための場所ではない』『そんな喋る感じでもないし、見ず知らずの子がふっときて、黙々とやることやって帰ろうかなって思ったら帰っていくっていう場所だよ』と言われたので。人と関わって生きていってほしいと思っているので、息子には違うなって」

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はっとりくんは2025年春、新たな選択をした。

はっとりくん:
「学校に行き始めました。勉強は積み重ねだから、そこをやらずに学校の勉強をやろうとすると分からなくなると思って」

成長と共に、自ら考えて“さまざまな選択”をしていく子供たち。「校内フリースクール」は、そんな“選択肢”の1つになるのだろうか。

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はっとりくん:
「(Q中学校に行ってみてどう?)まあまあ。放課(休憩時間)は友だちがみんな誰かと話しているから、話かけづらいです。ここ(てらこやさん)なら話せるんです」

2025年5月22日放送

(東海テレビ)

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