刑事事件で大阪府警の留置施設に勾留されていた容疑者の男性が、取調べに”強制的”に連れ出され、「黙秘権を侵害された」として大阪府に賠償を求める裁判を起こしました。
■男性は取り調べを拒否していたにも関わらず、手錠や腰縄をつけられ、車いすに乗せられ…
男性は取り調べを拒否していたにも関わらず、数人がかりで手錠や腰縄をつけられ、車いすに乗せられ、取調室に連れていかれたほか、階段を引きずり降ろされたこともあったなどと主張。
こうした行為は「供述の強要」にほかならず、憲法で定められた「黙秘権」の侵害にあたるとして、大阪府に対し、110万円の賠償を求めて裁判を起こしました。
男性は「すごく怖かったです。死にたい気持ちでした。人間扱いされていないです。明らかに人権侵害でしょ」などと取材に話しています。
男性の代理人の1人・高山巌弁護士は、きょう=10日の提訴後の記者会見で、「その権利を全うするために、捜査官の前に出て行って5時間、長ければ8時間ずっと質問に耐え続けて、初めて黙秘権が行使できる、なんていう権利は権利と呼びますか。
黙秘権があるというのは、取り調べに行かないという自由を認めて初めて成立する話です」と話しました。
■去年9月「殺人未遂」容疑で逮捕され黙秘しようとするも…
技能実習生として日本で働いていた男性は去年9月、大阪市内の路上で酒に酔って殴るなどの暴行を加えてきた同僚を刃物で刺してケガをさせた殺人未遂の疑いで逮捕されました。
(のちに傷害罪・銃刀法違反の罪で起訴)
男性は東淀川警察署の留置施設で勾留され、弁護人と相談した上で、事件について黙秘することにしましたが、取り調べが続くため、翌日から、取り調べそのものを拒否しました。
■関西テレビが入手した映像にはやり取りが…
関西テレビが入手した映像によると、次のようなやり取りがあったということです。
【男性(中国語)】「受けません。取り調べを受けません」
【警察職員】「取り調べを受けません。はい、そうですかとはならない。何人かで連れていってもいいの」
【男性(日本語)】「私の話は全部、全部終わり」
【警察職員】「ダメ、ダメ、ダメ。それは刑事が必要かどうかを決めるんで」
【警察職員】「あなたが終わったと言っても、刑事が終わったと言っていないと言ってます」
【男性(中国語)】「取り調べを受ません。黙秘します」
【警察職員】「黙っているのは構いません。でも、取り調べには出なさい。日本の法律で逮捕されている人はそれに従わなければいけません」
(※やり取りは自動翻訳機「ポケトーク」を利用。)
■取り調べ拒否の中「手錠と腰縄をつけられて車いすで取調室へ」
そして男性が拒否する中、警察職員4人が取り囲むと、男性は手錠と腰縄をつけられて車いすに乗せられ、取調室へと連れていかれました。
車いすでの連行は2日間に渡り、男性によると、2日目には、警察職員に腰縄とTシャツを引っ張られる形で階段を引きずり降ろされたということです。
こうした行為に対し、男性の弁護人は、警察などに抗議。
裁判所は、弁護人の申し立てを受けて、拘置所への移送命令を出しました。
■男性 取材に「人間扱いされていないです。明らかに人権侵害でしょ」
男性は、関西テレビの取材に対し、当時の心境を明かしました。
【男性(面会での取材に対し)】「(事件によって)全身に傷があったので、すごく痛かったし、すごく怖かったです。死にたい気持ちでした。人間扱いされていないです。明らかに人権侵害でしょ」
【男性の代理人 城使洸司弁護士】「『黙秘権を行使する』と言っているのに、取り調べにほぼ制限なく晒されるということは、もう供述を強要してることにほかならない。強靱な精神力で黙秘を通した人だけが黙秘権を行使できるできるというのは、もうそれは権利とは呼べないと思う」
■大阪府警 一般論として「取り調べのために留置施設から出場させること自体は、黙秘権の侵害になるとは考えていない」
大阪府警は関西テレビの取材に対し、一般論とした上で「取り調べのために留置施設から出場させること自体は、黙秘権の侵害になるとは考えていない」と回答しています。
■専門家「黙秘権は冤罪から社会を守るという公共的な性格もある」
この一連の状況について専門家は、「黙秘権」は容疑者のためだけにある権利ではなく、真犯人以外が犯罪者とされたり、不当な罪を科されたりしてしまう冤罪から社会を守るためのものだと指摘します。
【龍谷大学法学部 斎藤司教授】「黙秘権がない世界のことを考えると『嘘でもいいから話せ』ということになる。嘘をしゃべったら誰が一番被害を受けるというと、社会です。そう意味では、黙秘権というのは、嘘の供述を義務づけることから、社会を守る。そして冤罪から社会を守る、その人を守るという公共的な性格も私はあると思っています」