コロナ禍以降、運転手不足が続く影響で、タクシーが捕まりにくいと感じる人も多いのではないでしょうか?
そんな中、「予約を断らない」タクシー会社が鹿児島市にあります。
リピーターも多いというこの会社の躍進の秘訣を探ってきました。
とある金曜日の夜。
鹿児島中央駅のタクシー乗り場には次々と乗客がやってきます。
午後10時、気づけばタクシープールは空になっていました。
こちらは1999年の天文館の映像です。
何十台というタクシーが列を作り、道路を埋め尽くしています。
過去10年間の全国の法人タクシーの運転手の推移です。
減少傾向が続く中で、2019年度から始まったコロナ禍がそれに拍車をかけました。
この傾向は県内も同様で、コロナ禍前は3000人以上いたタクシー運転手は現在、約2300人にまで減ったといいます。
鹿児島県タクシー協会・山口俊則専務理事
「(ピーク時は)タクシー1台につき、1.3人くらい(の運転手)がいた。休みの運転手がいても常に稼働率は100%だった。今は約半分(の稼働率)。あと300人くらいいれば」
コロナ禍が終わり、観光客の増加などを背景にタクシー需要は増えているものの、供給が追いつかない、いわば「タクシーが捕まりにくい時代」。
そんな中「予約を断らない」会社が鹿児島市にあります。
常連客
「南州タクシーさんに(電話を)かけることが多いです」
「南州さん以外には乗らないです」
昭和28年に創業した南州タクシー。
市内6つの営業所に150台のタクシーが配置されています。
会社に勤めて16年の鬼丸さんに断らない理由を尋ねるとー
南州タクシー 総務部・鬼丸裕也参与
「80%が無線配車。お客様からオーダーをいただいてお迎えに上がる」
タクシーを走らせながら利用客を探す「流し」や駅前のタクシー乗り場といった所定の場所で待つ「客待ち」はほとんどしないそうです。
「ありがとうございます。南州タクシーでございます」
この予約優先のやり方を支えるのが無線による独自の配車システム。
最大5名の配車係が、タクシーの現在地を確認しながら、依頼先に一番近い車両を手配します。
ピーク時は、常に電話が鳴りっぱなし。
すぐに配車できないときでも、お客さんにはこんな提案を。
配車係
「10分くらいよろしいでしょうか。ありがとうございます」
基本的に断らず、到着時間の目安を伝えることで待ってくれる客も多くなるそうです。
今や一日のオーダーは、2000件に上ります。
会社が営業スタイルを大きく変えたのは25年前。
こんなきっかけがありました。
南州タクシー 総務部・鬼丸裕也参与
「(以前の経営母体の会社が経営悪化し)南州タクシーも一度、倒産している。非常につらい時代があった。残っている乗務員がどうにかお客さんを増やしたいという気持ちで一件一件のお客さんを大事にしていった。そこからスタートしている」
倒産を機にお客様目線をより重視するようになった南州タクシー。
運賃割引や商品券に交換できるポイントカードを導入したり、高齢者を対象にした割引や緊急時の病院への送迎などにも対応する「あんしんカード」という仕組みも作り出しました。
この独自のスタイルを貫いたからか、多くのタクシー会社を苦しめたコロナ禍でも売り上げは8割キープと極端には落ちなかったそうです。
南州タクシー 総務部・鬼丸裕也参与
「乗務員と一緒に考えながらやっている。運送業にカテゴライズされるがやっていることは純然たる接客業」
「足元、気をつけてくださいね」
「滑りそうで」
「うんうん 滑りますからね」
乗務員歴18年のベテラン芝原幸美さん(71)。
この日は、高齢の男性を病院まで送り届けます。
目的地までの道中、こんなやりとりが。
芝原さん
「私が(薬を)とりに。よかよかよか」
「すぐ、いっき済んで」
「タクシーはサービス業」
乗務員一人一人がそれを体現することで、リピーターの獲得にもつながっているようです。
利用客
「乗らない日はないです。与次郎に行くと、ユニクロに私が知らないから連れて行ってくれる」
タクシーの運転手不足が叫ばれる中でも会社では2024年、約50人の乗務員を採用。
その8割近くが、未経験者です。
ここにもこだわりが。
南州タクシー 総務部・鬼丸裕也参与
「どちらかというと、未経験者の方がいままでタクシーを使っていた人たち。自分がお客さんだったら、こうしてほしいという目線を持ってきてもらいたい」
乗務員には若い世代も増えてきました。
乗務員
「27です。(常務歴)1年です」
「今年で31。乗務歴5年半」
「28です。まだ3~4カ月」
南州タクシーの乗務員193人のうち20代・30代は現在24人。
営業所では若手とベテランがアットホームな雰囲気で情報交換をしていました。
そんな若手の1人、乗務員歴半年の徳田晏奈さん(29)です。
乗務員・徳田晏奈さん
「アドバイスというか、先輩たちが『おれはこうしてるよ』って。それこそここもここから道が急に狭くなるんですよ。だから『ここで1回ブレーキをちゃんと踏んでね』とか」
乗務しながら、いつも感じることがあるといいます。
南州タクシー・徳田晏奈さん
「(お客さんから)『私は南州しか乗らないのよ』って言われる。先輩たちがやってきたことが今につながっている、常連のお客さんとか。南州だからちゃんとしないとな」
独自のシステムや充実した乗務員に支えられ、着実にリピーターを増やしてきた南州タクシー。
お客さんからよく言われることがあるそうです。
南州タクシー 総務部・鬼丸裕也参与
「(お客さんから)南州さんはみんな優しいよねと非常にうれしい。優しいというほめ言葉をいただけるのは。みんながハッピーになってもらうとうれしい。お客さまも従業員ももちろん会社も。人としての当たり前を大事にしている。大事にしているというよりも。それって当たり前じゃないですか」
業績をあげてきた最大の理由が見えた気がしました。
きょうも当たり前のことを当たり前に。
お客さまを目的地まで送り届けます。