戦前に完成した北海道室蘭市の市役所の建築工事に、新潟県佐渡市の左官職人が参加していたことを1枚の写真が伝えている。職人の孫である男性によって発見された写真は、室蘭市にとっても貴重な資料だった。
古いトランクから出てきた1枚の白黒写真
新潟県佐渡市に住む齊藤文敬さん(69)は、能登半島地震で自宅や倉庫に被害を受けたことを機に、家財の整理を進めていた。

そこで見つけたのが、亡くなった祖父の名前が記された古いトランク。中を開けてみると、数々の写真が出てきた。その中で、齊藤さんの目にとまった1枚がある。
「写真の台紙に、室蘭市役所 昭和6年8月完成と書いてあって、亡くなった祖父の“齊藤弁治”の名前もあった」
昭和6年(1931年)に完成した北海道・室蘭市役所。その前には建築に携わった人々が整列している。

写真は、左官職人だった祖父・弁治さんが佐渡から北海道に渡り、その建築工事に携わっていたことを伝えていた。
祖父の弁治さんは、齊藤さんが生まれる前にすでに亡くなっている。
左官職人であったことは承知していたものの、「そんな遠くまで行って仕事をしていたんだなと感心した」と、写真を見つけた当時の思いを振り返った。
AIでカラー化 祖父が映る写真は室蘭市にとっても貴重な1枚
祖父の人生の一端に触れた齊藤さんは次の行動に出る。
この写真をAIソフトを使いカラー化したのだ。

齊藤さんが「当時はやりのレンガ色だと思う」と指をさす室蘭市役所は、カラーにしたことでより鮮明に。弁治さんを中心とした当時の人々も、生き生きと浮かび上がった。
立派な建物を作り上げた達成感に満ちているのだろう。
齊藤さんの行動はここで終わらない。
室蘭市について知ろうと市のホームページを開いた齊藤さんは、そこで、室蘭市にまつわる“昔なつかしい写真”を募るページを発見。早速、写真を送付すると室蘭市からすぐに返答があった。
「室蘭市では所蔵していない大変貴重なお写真で、ご提供心より感謝申し上げます」
室蘭市によると、当時の市役所は完成から10年後に火災で焼失していて、市にも当時の記録は残っていないという。
齊藤さんが見つけた写真は、在りし日の庁舎を示す貴重な1枚だったのだ。その後、齊藤さんの元には室蘭市の青山剛市長からも礼状が届いた。
歴史や文化…何気ない1枚が貴重な資料に
家の片隅から見つかった1枚の写真が94年の時を超え、再び佐渡市と室蘭市をつないだ。齊藤さんには、この経験から伝えたい思いがある。

「今回私が見つけたような写真は、捨てられてしまうと二度と元に戻らない。そうならないように、昔の資料を集めてもらいたい」
写真が貴重だった時代に撮影された1枚は、知られざる歴史や文化を残している可能性がある。
今回の写真は美しい庁舎の姿のみならず、良い仕事を成すために集結した職人たちのプライドをも伝えていた。弁治おじいさんは、今回の出来事をどう思っているだろうか。

「無口な人だったようだから、笑ってニコニコしているだけで、コメントは出ないと思う」齊藤さんはそう話すと、とびきりの笑顔を見せた。
顔を合わせることがなかった祖父の存在を、これまでないほど身近に感じているに違いない。
(NST新潟総合テレビ)