1970年の大阪万博で横尾忠則氏が披露したのは「まだ工事中なの?!」と来場者をびっくりさせたという真っ赤な工事用足場のインスタレーション。あれから55年、再び大阪万博が開催されている今、東京のど真ん中のグッチ銀座ギャラリーで、そのインスタレーションが再現されている。
展覧会のタイトルは「横尾忠則 未完の自画像 - 私への旅」。フラッグシップショップの7階でエレベーターを降りると、オシャレな空間が広がっていて、まず目に入ってくるのが、自画像の連作。
「自画像は私への旅」
赤坂御苑で行われた園遊会での夫人とのツーショットや、“mystery”という文字が書かれた家族4人での作品など、6点すべてがいずれも新作だ。自画像の連作を描いた理由を横尾氏自身がビデオで語っている。

横尾氏:「自画像というのは私への旅だと思うんですよね。僕の場合は“私探し”ではないですけれど、不思議なものを絵にしてみようと発想したもので、不思議なものは一体何なんだって考えたときに、僕は自分だと思った。自画像という謎を解き明かす。解き明かさなくてもいいし、おそらく解き明かされないものだけど、一度それを描いてみようと思い、連作で始めたんです」

横尾氏はまた、この展覧会のハイライトである、7階と屋上の2フロアを貫く真っ赤な巨大なインスタレーションについて、1970年の大阪万博の“未完”の作品の延長なのだ、と説明している。
55年前の大阪万博作品を再現
「大阪万博から55年ぶりですね。あの作品は“未完”と関係があるんです。物事は完成を目指して創作するけれど、完成というのはあり得ないと思うんですよ」

横尾氏は当時「せんい館」の建築デザインを担当したが、工事中の現場を見て「建築のプロセスを象徴している足場を残したい!」と思い立ち、多くの反対を押し切って“未完”のパビリオンとして公開、大きな話題を呼んだ。

1970年の大阪万博では全身真っ赤だった作業人形は今回、リアルなベージュの作業服姿になり、命綱まで付けている。“未完”は現代にもつながっていたのである。

今回の展示で、真っ赤な足場と組み合わされた絵は《原始宇宙》(2000)の原寸大レプリカ。3枚の異なる絵のコンビネーションだ。
作業員も絵に加筆中?!
左の絵の侍が手に持っているドクロは真ん中の絵に山積みにされ、真ん中の絵に登場するタカラジェンヌのコスチュームの柄が全面右の絵になっている。四半世紀前の作品とは思えない斬新さを感じるのは筆者だけだろうか?

また、よく見ると、作業員の手には刷毛が!!2000年に描いたこの絵もまた“未完”ということを伝えたいのだろうか?横尾さん的なエスプリに唸ってしまった。
2015年に“芸術のノーベル賞”と言われる高松宮殿下記念世界文化賞を授賞してから10年、横尾氏は88歳になった今も次から次へと“未完な”横尾ワールドを塗り替え続けている。
素顔の横尾氏に“接近”
「人間が一生で(完成を)目指そうとしたって、100年ぐらいじゃ完成しない。それも壮大な旅ですよね。これほど壮大な宇宙的な旅はないんじゃないかと思いますね」
こうして横尾氏自身の生の言葉で、作品作りの信念や人生観を聞けるのは貴重で、しかもアトリエでの制作風景も見られ、無料とは思えない実に満足度の高い展覧会である。

グッチと横尾忠則氏とのコラボは、「瀬戸内国際芸術祭2025」開催地の一つである豊島(てしま)でも実現。グッチ銀座ギャラリーと同じような真っ赤な足場と絵の組み合わせのアートウォール 《未完の足場》が公開されている。

グッチ銀座ギャラリーでの「横尾忠則 未完の自画像 - 私への旅」は11月9日まで、瀬戸内・豊島でのインスタレーションは11月初旬まで公開されている。