梅雨の時期こそこんな書店はどうですか
梅雨のじめじめした日々。
外に出るのが億劫になるこの季節だからこそ、本の世界に浸る時間を楽しむのはいかがだろうか。
愛媛県松山市中心部の裏通りには、そんな”本好き”を引き寄せる隠れ家的な書店がある。

”出会い系本屋”で過ごす雨の日
客:
違う世界を見られるのがいいですね。
客:
いろんなところに連れて行ってくれる。宇宙とか、人の頭の中。
本好きが集まる、書店。
店主:
うち、出会い系本屋なんで。
そう笑顔で語るのは、松山市春日町の「本の轍(わだち)」を営む越智政尚さん。
「本との出会い、人との出会い」を大切にするこの書店は、2ヶ月前に移転してリニューアルオープンした。以前は隣のビルの1階にあったが、客が増えて手狭になったため、現在の場所へ。新店舗は以前の1.5倍ほどの広さとなり、所狭しと並ぶ約3000冊の本をよりゆったりと選べる空間になった。
「アートと暮らしをテーマに選書しています」と越智さん。
大手書店で見かけるベストセラーよりも、長く読み継がれるロングセラーを大事にした品揃えが特徴だ。

他にはなさそうな本があるなと思いました
この個性的な選書に惹かれ、県内外から多くの客が訪れる。
「パッと見、面白そう。他にはなさそうな本があるなと思いました」と千葉県から旅行で訪れた女性は語る。
また京都から愛媛県の興居島に移住したという女性は「一般的な書店って感じじゃなくて、その人の個性が現れているので、2階にあってわざわざ来ないといけないような所、素敵ですね」と魅力を感じている様子だ。
「お客様同士が仲良くなっちゃったり、また来ようかなって思うじゃないですか」という声も聞こえてくる。

コーヒーと本が織りなす贅沢な時間
「本との出会い、人との出会い」そして書店での時間を居心地のいいものになるように、店主はそう語る。
「本の轍」の魅力は厳選された本だけではない。
店主自らドリップコーヒーを淹れ、客に提供している。
「読書に合うブレンド」と越智さんが呼ぶそのコーヒーは、徳島市のコーヒー豆専門店が手がけるオリジナルブレンド。「本の世界にスッと入り込めて、読んでいるときもそれを邪魔しない。尖ってもいないし、丸みがありすぎるでもない」と、読書のお供にぴったりの一杯だという。
深煎りコーヒーをミルク割りでいただくと、まろやかさの中にもしっかりとしたコーヒーの苦みを感じる。本に囲まれた空間でのひとときは、まさに贅沢な時間だ。

梅雨の今、読みたい一冊
ここで、梅雨の今だからこそ読みたい本を越智さんに教えてもらった。
まず紹介されたのは印象的な絵が表紙に描かれた「雨犬」。
版画家と音楽家がともに作り上げたこの一冊は、雨の日に街中に落ちている様々な記憶を集める老犬「雨犬」と、ペンキ職人の日々を犬目線で綴った物語だ。
「本としてのたたずまいもめちゃめちゃ美しい一冊」と越智さん。
本の上部が切りっぱなしになっているなど、古びた感じを出す手法も施され、「本の作りがモノとして愛でられる部分」と語る。

パタパタ、サーサー、ザーザー
次に紹介されたのは「雨音を、聴きながら 雨のアンソロジー」。
文豪から気鋭の歌人まで、雨をテーマにした小説やエッセイ、詩など、1冊で46編もの物語に出会える一冊だ。
「アンソロジーのよさって、小説が苦手な方が小説に触れることができるし、詩が苦手な方が詩も読んだりできる」と越智さん。
「雨ってやっぱりいろんなリズムがありますよね、音がね、パタパタ、サーサー、ザーザー。心地よい雨音の響きが絶対あるはずですから、それをBGMに」と勧める。

ありのままの日常
そして、もうひとつ。
写真家がありのままの日常を、それぞれ1枚の写真とともに綴るエッセイ集も、おすすめだという。

本は五感で楽しむ”友達”
「本はやっぱり友達、身近に寄り添ってくれる大事な友達」と越智さん。
「開いた時の新しい本のインクの匂い、古い本だとちょっと古びた匂いもあったり、パラパラとする音、五感で楽しむことができる、そこが電子書籍との違いじゃないでしょうか」
梅雨の今、昔馴染んだあの本を、今気になるその本を手に取ってみてはどうだろう。
雨のリズムに体を預けながらページをめくる時間は、きっと特別なものになるはず。
