「まさか自分が詐欺に遭うとは思いもしていなかった」。富山市の自営業男性(47)は悔しそうに語る。先月、通販サイトで購入したラジコンをめぐり「返金詐欺」の被害に遭いかけた。巧妙化するキャッシュレス決済を悪用した新たな詐欺の手口とは。

「欠品しているのでお届けできません」突然の返金話

男性が先月末、通販サイトで見つけたのは飛行機のラジコン。新品未使用で1万1千円の商品が6380円と格安だった。
「見つけたと思って、新品未使用で1万1千円のが6380円、支払い方法はPayPayだったんですね、お店の指定で」

支払いを済ませてから4日後、男性のもとに「商品が欠品しているのでお届けできません」というメールが届いた。返金を希望する場合は公式LINEから連絡するよう指示されていた。
画面共有を求められた瞬間に豹変

男性がLINEで連絡すると、PayPayのアカウントに返金するためのリンクを求められた。しかし相手からは「返金がうまくいかない」という連絡が何度も届く。
そして決定的だったのが、次の展開だ。相手は「PayPayではなく銀行口座に返金する」として、スマートフォンの画面共有と音声通話を求めてきた。

「画面をシェアして銀行のアプリを立ち上げて一緒に操作していきましょうと言われたので、画面共有はできませんって言ったら、そこで豹変されて、だから時間の無駄、おまえのせい、私の時間を返せみたいなことを日本語と中国語交じりで暴力的に言われて、一方的に電話を切られて…」
男性が画面共有を拒否した途端、相手との連絡は途絶えた。
全国で5500件以上、被害額は6億8000万円超
消費者庁によると、この「返金詐欺」に関する相談は昨年12月までに全国から5500件以上寄せられ、被害額は6億8000万円に上っている。
消費者庁財産被害対策室の吉田健一室長は警鐘を鳴らす。

「返金詐欺ということで、消費者が商品購入を申し込むところで業者側が欠品を理由に『返金します』というのを入口にして結局、返金を装って消費者にお金を請求する手口になります」
巧妙な心理戦と具体的な手口
この詐欺の入口は「欠品のため返金したい」という一見まともな申し出だ。返金されないことで焦る被害者の心理を突き、さらに巧妙な手口へと誘導していく。

最も危険なのが銀行口座などの画面共有と音声通話の要求だ。返金手続きと思っていても、実際には画面を見ている相手から音声で送金を誘導される仕組みになっている。
今回の男性は画面共有を断ったため大きな被害には至らなかったが、消費者庁への相談には100万円を超える送金をしてしまったケースもあるという。
専門家の警告と対策
吉田室長は注意点をこう指摘する。
「『〇〇ペイ』に慣れている方でも言葉巧みに誘導されて自分としては返してもらうはずがお金を振り込んでしまっている、よく知らない相手に安易にスマートフォンの画面共有を許可してはいけない」
被害にあった男性は先週、警察に相談。警察は詐欺容疑で捜査を進めている。
「お金を支払ってしまったという気持ちを逆手に取って用意周到に巧に信じ込ませる、そういうことが頭にあるだけでも防ぐことができたのではないかと今になって思う」
キャッシュレス決済の普及とともに、その利便性を悪用した詐欺も進化している。不審に思ったら消費者庁(188番)や警察(♯9110)に相談することが大切だ。