東日本大震災の津波で、大きな被害を受けた宮城県石巻市の渡波地区で、移転を余儀なくされていた書店が、6月、渡波地区に戻りました。「地域ににぎわいを取り戻したい」店にはオープン初日から多くの笑顔がありました。
6月14日、石巻市渡波地区。太鼓と笛の音が響き渡るなか、この日オープンしたのが「おかべ本屋さん」です。
おかべ本屋さん 岡部栄二さん
「雨の中、いろんな方々がお店に来ていただいて、本当にちょっと安心しています、そしてうれしいです」
この書店はこちらの商店街で再びオープンしました。しかし、商店街と言ってもほかには、金物店の1店舗しか営業していません。
創業は明治時代。専務の岡部栄二さん(65)は、この商店街で生まれ育ってきました。
おかべ本屋さん 岡部栄二さん
「ここで地域の完結、買い物が。八百屋があって、医者があって。この通りがメイン」
400メートルほどの商店街には、かつておよそ60店舗が立ち並び、この書店も地域の憩いの場として愛されていました。しかし…。
おかべ本屋さん 岡部栄二さん
「おかべ文具屋さんって看板置いてありますよね。あそこぐらいまで。津波でシャッターぶち抜かれた」
東日本大震災で、商店街には2メートル以上の津波が押し寄せ、多くの店が流されました。書店もがれきで埋まり、市内のショッピングモールへの移転を余儀なくされました。
その一方で、ある思いだけは消えませんでした。
おかべ本屋さん 岡部栄二さん
「昔ここで育った時の、にぎわった時の雰囲気・思いが、この年になっても残っていて、私一人ではどうにもならないですけど、そのきっかけになれればいいかなと。じゃあ、一発奮起して戻ってこようと決めました」
移転先では電子書籍の普及などにより、売り上げは年々減少していたと言います。さらに追い打ちをかけたのが人口減少。震災前、渡波地区には1万7000人以上が暮らしていましたが、現在はおよそ1万3500人。2割以上がこの地域を去り、客足の確保が難しくなっています。
一時は店を畳むことも考えていたと言いますが…。
おかべ本屋さん 岡部栄二さん
「渡波には地域に根付いた本屋さんがないので、子供たちが少なくなったにしても、気軽に来れるお店をここに作って、少しでもここがにぎやかになればいいかな。人が多い少ないよりも、とにかくここで、いろんなことをやっていきたい」
渡波地区に対する岡部さんの思い。その思いが実現するかのように、児童書を多く取り揃えた店先では、多くの人が楽しそうに本を手に取っていました。
男の子
「楽しい」
女の子
「すぐ本が欲しいときに買いに行けるからいいかなと思いました」
地元の女性
「やっぱりいいよね、近くに本屋さんはね」
一般社団法人によると全国の書店はここ10年でおよそ3割減り、書店がない市町村も27%ほどに上る言います。
しかし、こうした書店が被災した地域に再び戻り、この日、笑顔とにぎわいを生み出しました。
おかべ本屋さん 岡部栄二さん
「やっぱり渡波に来てよかったと思いました。気軽に足を運んでいただいて、喜んでもらえる。そして楽しんでもらえる。そういう本屋さんというか、ここに開店したという思いが伝わっていただければと思っています」