備蓄米放出の効果か、わずかながらコメ価格が落ち着く兆しが見える中、秋に収穫される新米の「青田買い」の動きも出ているようだ。
今後のコメの価格に、どのような影響を及ぼすのだろうか?
高騰するコメの価格に消費者は悲鳴
北海道旭川市のスーパーには「ゆめぴりか」や「ななつぼし」など、北海道産の銘柄米が並んでいるが消費者は。
「やはり高い。前と比べて倍ぐらいしている。せめて2000円台くらいになるといい」
「冷や麦やそうめんなど、昼食は麺類が多くなった」 (いずれも買い物客)

店側も複雑な思いだ。
「安く販売したいが、原価を割って販売することはできない。ちょっと歯がゆい部分」(DZmart豊岡6条店 平山典嗣店長)

新米を収穫前に確保する「青田買い」の動き
高いコメ。
これを象徴するような動きがあった。
「米穀店やコメの加工業者から春先に、今年作るコメに関して『販売していただけませんか』という問い合わせがあった」(川添農園 川添宏明さん)
旭川市の稲作農家、川添宏明さん。

まだ雪の残る3月、本州の米穀店やパックご飯の製造業者が、秋に収穫予定の新米をあらかじめ買い付ける動きがあった。
いわゆる「青田買い」だ。
川添さんは今まで経験したことがなかった。
「金額の提示はされなかったが、『他の業者より高くしたいと思うがどうか』という話があった。わざわざ北海道まで買い付けに来ているのかと感じた」(川添さん)

川添さんによると2024年の新米を、JAは1俵60kgあたり2万5000円ほどで買い上げたという。
「青田買い」を持ち掛けた業者は、これ以上の価格をにおわせていた。
具体的な金額を提示された農家もあるという。
「どれくらいか聞いたときに3万円~3万5000円。他の地域では4万円という話も」(川添さん)

「青田買い」の動きがあった3月は、農林水産省の調査でコメの店頭価格が初めて5kg4000円を超えた。
江藤前農水相が政府備蓄米の入札による放出も始めましたが、値上がりが続き消費者は。
「思ったほど下がらない」
「前ほどではなくても、買いやすい値段になってほしい」(いずれも消費者)
「青田買い」の動きは、コメの枯渇感がピークに達したころと重なる。

備蓄米の効果で「青田買い」は鎮静化へ
しかし、その後は。
「種まきを始める前くらいが多かった。4月ごろから減ってきた感じがする」(川添さん)
備蓄米の放出が続いた4月ごろから問い合わせが減り始め、最近は全くなくなったというのだ。

「青田買い」の動きが鈍くなった理由について、コメ流通の専門家は。
「備蓄米の放出などで不足感がやわらぎ、流通するコメが増えた。今年収穫するコメを急いで確保しなくてもいい状況になったと、業者が判断したのではないかと考えられる。今年のコメがいま以上に値上がりするということは、作況がそれほど悪くなければ考えにくい」(酪農学園大学 相原晴伴教授)

農家にとっては今後の値動きに不安も―
コメの価格が落ち着きを見せようとしている一方で、川添さんは今後の値動きに不安を感じている。
「規模拡大や新しい事業を始めるにあたり、多額の金を使っている。その見通しが、価格の乱高下によって計画が立てられなくなる。安定的な値段であればいいが、急激に下がることがあれば怖い」(川添さん)
コメ作りにかかるさまざまな費用が値上がりしている中、以前のような価格ではとてもやっていけないという。

「備蓄米が2000円なのは致し方ない。新米が例えば2000円で流通したら価格が暴落し農家は泣いている」(川添さん)
適正な店頭価格を聞いてみると。
「5kgで3500円くらい」(川添さん)
生産者と消費者の間には、コメの価格を巡ってギャップがありそうだ。

配食業者も苦境 求められる安定供給と適正価格
旭川市で配食事業などを行う「フレアスマイル」。
月に約1トンのコメを使う。
仕入れ値は2024年のほぼ倍で、ご飯の価格を50円から75円に値上げを余儀なくされた。
これ以上の値上げを回避するため、農家との直接取引や外国産米の導入を探っている。

「経営はそんなに簡単ではなく、楽ではないような状況。一定の価格で毎食食べられるような、買いやすい価格で提供できるのが一番。今よりコメの価格が下がると非常に助かる」(フレアスマイル 佐藤勇太さん)

コメを巡る“かじ取り”が問われる今
農家が持続可能なコメ作りを続けられる経営環境。
消費者が安心して主食を口にすることができる価格。
食の現場は今、難しい“かじ取り”を迫られている。
