様々な事情で学校に行けない子どもたちに居場所や学びの場を提供する「フリースクール」が、島根・江津市に開校した。立ち上げたのは、市内で牧場を経営する女性だ。
2頭の馬を“先生”に…子どもたちの生きる力を育く取り組みを取材した。

江津市の「うま牧場Lerai(れらい)」
江津市の「うま牧場Lerai(れらい)」
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江津市郊外にある「うま牧場Lerai(れらい)」。
牧場のオーナーを務めるのは、石原愛子さんだ。

牧場には、2頭の馬。11歳のメス・レラちゃん、16歳のオス・ミラミスくん。石原さんと一緒にのびのびと過ごしている。

牧場のオーナー・石原愛子さん
牧場のオーナー・石原愛子さん

うま牧場Leraiオーナー・石原愛子さん:
この広々したところで馬たちもストレスなくのびのびとしてるし、それを見てると私も幸せで、とっても幸せな毎日です。

日々の仕事と生活の充実ぶりを話すのが、うま牧場のオーナーの石原愛子さん。馬たちと悠々自適の毎日を送る中で、半年前に始めたのが「フリースクール」だ。
不登校や学校になじめない子どもたちに、学びの場や安心して過ごせる居場所を提供している。

11歳のメス・レラちゃん
11歳のメス・レラちゃん

フリースクールの“先生”は2頭の馬たち ホースセラピーで癒しを

ただユニークなのが…“先生”は牧場にいる2頭の馬たち。馬とのふれあいや乗馬体験を通じて、心や体の機能を向上させる「ホースセラピー」を取り入れ、子どもたちの心を癒やしている。

16歳のオス・ミラミスくん
16歳のオス・ミラミスくん

転機は20年以上前に経験した痛ましい出来事…子供たちの支援活動へ

石原さんは、埼玉県で20年以上和太鼓の講師を務めていたが、ある日、職場に向かう途中に女子中学生が列車に飛び込み亡くなる痛ましい出来事に遭遇。

この経験をきっかけに不登校の問題に関心を持つようになり、子どもたちの生きる力を育む場を作ろうと、3年前にふるさとである江津市にUターンした。

和太鼓の講師時代の石原さん
和太鼓の講師時代の石原さん

そして、江津市のかつて父親が営んでいた牧場の跡地で馬を飼い、フリースクールを開いた。

うま牧場Leraiオーナー・石原愛子さん:
馬は家族でもあるし、一緒に悩みがある子どもたちを助けると言ったら上からなんですけど、そういうことをしていく“仲間”ですね。

石原さんは、飼っている馬を“家族”であり、“仲間”と表現。その愛情が伝わってくる。

馬に愛情を注ぐ石原さん
馬に愛情を注ぐ石原さん

「まるで家族」2頭の“先生”とのふれあいを体験

馬が“先生”というユニークなフリースクール。

いったいどんな取り組みなのか、牧場によく遊びに来るという石原さんの姪のみつきちゃんとその友だちのなるみちゃんに活動の様子を再現してもらった。

手入れなどをして馬と触れ合う
手入れなどをして馬と触れ合う

まず「ボロ取り」と呼ばれる馬のフンの掃除。子どもたちにとってはまるで“宝探し”のようで、取材にあたった福島睦アナウンサーも実際に体験してみると…「見つかると嬉しいですね」と話し、自然の中での活動に心が解放されていくのを実感したようだ。

そした馬との触れ合い声をかけながらのブラッシング。ミラミスくんの表情が気持ち良さそうに変わっていくのがわかる。
オーナーの石原さんは、「きれいにするのと、血行を良くするのと、コミュニケーションです」と話し、一つ一つの活動の意味を説明した。

馬とコミュニケーションをとりながら歩く
馬とコミュニケーションをとりながら歩く

毛並みも整い、きれいになったところで、今度は手綱をとって馬と一緒にあるく「引馬」に挑戦した。

歩くことや止まるといった行動をする人間の気持ちを馬がくみ取って動いてくれる。
石原さんは「ポニーでも体重が150キロあるので、力では引っ張れないんですよ。一緒に歩くよという意志を(馬に)感じてもらること」と話し、ともに歩きながら心を通わせることが大切だと話した。

ロープを通して馬と心を通わせる
ロープを通して馬と心を通わせる

うま牧場Leraiオーナー・石原愛子さん:
リードを持って自分で歩くときは1対1の関係なので、引いている人の心が馬に伝わって、その反応があるんですね。

福島睦アナウンサー:
歩き出したら一緒に来てくれて、止まったら止まってくれて。ロープを通じて心がつながっているような感じがしました。

乗馬を通じが様々な効果
乗馬を通じが様々な効果

さらに子どもたちは、ポニーにまたがり乗馬を体験。広い牧場を馬で移動する体験は貴重な上、バランス感覚の向上や筋力強化、それに協調性を育んだり、自己肯定感を上げる効果も期待できるという。

体験した石原さんのめい・みつきちゃんと友達のなみちゃん
体験した石原さんのめい・みつきちゃんと友達のなみちゃん

今回体験した石原さんのめいのみつきちゃんは「ずっと一緒にいたら仲良くなれるから、楽しい」と話し、ともだちのなるみちゃんも「触れ合っていると、仲良くなってるなって気がして、癒される」と話す。

みつきちゃんが、「友達というよりも家族という感じ」と表現すると、なるみちゃんは「姉妹という感じ」と話し、短い触れ合いの時間の中で、すっかり2頭の“先生”と打ち解けあい、しっかりと心を通わせたことがわかる。

“先生”として「100点」の振る舞いをみせるレラちゃん
“先生”として「100点」の振る舞いをみせるレラちゃん

うま牧場Leraiオーナー・石原愛子さん:

触って、エサをやって、お世話して、乗ってというのが、子どもたちはとにかく楽しいんですよね。温かいし、優しいし、特に子どもが好きみたいで、子どもには特に優しいんですけど。

福島睦アナウンサー:
馬たちは先生として何点ですか。

うま牧場Leraiオーナー・石原愛子さん:
先生として100点ですね。そばにいるだけで、自分はこの世界にいて良いんだということを感じるんですね。理屈じゃなくてただ感じるんですよ。それが馬のすごい所ですね。

フリースクール開校から半年 「硬かった表情が笑顔に…」感じた子供の変化

フリースクールは週2回活動で、4人が通っている。

開校から半年が経った中、石原さんは不登校が続く子どもに起きた“変化”に手応えを感じているという。

うま牧場Leraiオーナー・石原愛子さん:
最初は本当に表情が硬くて、馬に触るのも、近寄るのも最初怖がってたのが、2回目に乗った時にちょっとニコっとしたんですよ。あ、笑ったと思って。その笑顔を見るのが何よりも楽しいですね。今もう普通に笑えますからね。

フリースクールに通う児童の手紙
フリースクールに通う児童の手紙

馬との触れ合いで笑顔を取り戻したという女の子が、フリースクールでの体験について感じたことを手紙で教えてくれた。

児童の手紙には「さいしょ、レライに行ったとき、馬がすこしこわかったです。でもレラやミラミスからきてくれてうれしかったです。馬といっしょにいるといやされます。馬とふれあえる時間がとてもたのしいです。レラとミラミス、これからもよろしくね」と綴られていた。

うま牧場Leraiオーナー・石原愛子さん:
嬉しいですね。これは私の宝物ですよ。

馬との触れ合う時間をさらに…広がる活動の幅

石原さんは、フリースクールに続いて2026年4月から市内の社会福祉法人と共同で放課後デイサービス事業をスタートさせる予定だ。子どもたちが馬と触れ合う機会をさらに増やしたいと考えている。そして「やりがいは子どもの笑顔を見た時。それが私のエネルギー源です」と語り、子供たちの未来を照らす活動への意気込みを新たにしていた。

活動の幅はさらに広がる
活動の幅はさらに広がる

(TSKさんいん中央テレビ)