「感染性胃腸炎」が流行している。
この数日でも「盛岡市の教育保育施設で13人」、「函館の保育所で園児15人」「福岡市での保育施設で園児と職員46人」など集団発生が報告されている。
本来、秋から冬にかけて多いはずのものが、なぜ今、増えているのか。
感染症学が専門の、昭和大学・二木芳人名誉教授に詳しく話を聞いた。

■感染力が非常に強い「サポウィルス」「アストロウィルス」
昭和大学 二木芳人名誉教授:
感染性胃腸炎とは「急に発症する腹痛、嘔吐、下痢」の症状を訴えた人のことを言います。
最も多いのが、「ノロウイルス」や「ロタウイルス」などによる『ウィルス性胃腸炎』。
そのほか、「サルモネラ菌」や「カンピロバクター」といった細菌が原因の『細菌性胃腸炎』や、「アニサキス」など『寄生虫』が原因の場合もあります。
今、流行っているのは『ウイルス性胃腸炎』。
「ノロウィルス」がよく知られていますが、最近報告されているのが「サポウイルス」「アストロウイルス」という異なるタイプのウイルスです。
いずれも「ノロウイルス」と同じグループのウイルスで、症状が似ているため、症状だけでは区別できません。
「ノロウイルス」が乳幼児から高齢者まで幅広く感染するのに対し、「サポウイルス」「アストロウイルス」は小さいお子さんを中心に感染します。特に「アストロウイルス」はその傾向が強くなります。
しかもこれらは感染力が非常に強いという特徴があるのです。
特に子供に感染しやすいウイルスですから、集団生活で接触機会の多い保育施設などで感染が広まっているのです。
そして、それらは子供を介して家庭にも持ち込まれることとなります。

■原因は「天候不順」と「免疫負債」と…
昭和大学 二木芳人名誉教授:
寒い時期に多い感染症が、季節外れの流行を続けている原因は何か。
感染症専門医の間では、「天候不順」も大きな要因だと言われています。
今は突然、夏日になったり、肌寒くなったりと、季節が目まぐるしく変わることが珍しくありません。
しかし寒暖差は人の体に大きな影響を与えます。自分でも気が付かないうちに体調を崩していることもあるのです。
そして、不調で免疫力が低下すると感染症全般で患者さんが増えてしまうのです。
また、コロナ流行期に徹底されていた感染対策が緩んだことと、しばらくウイルスに接する機会が無かったことで、免疫力が低下し、感染しやすい状況ができています。
これを「免疫負債」と呼びます。
「天候不順」と「免疫負債」が合わさって、我々の感染抵抗力がかなり落ちていると言えるでしょう。
そして、インバウンドや海外旅行の増加も原因の一つと考えられます。
海外から持ち込まれるものは、日本で流行っているものとはタイプの異なるウイルスである場合があり、それが国内での感染拡大に繋がっている可能性もあると言われています。

■アルコール消毒は効果なし!
昭和大学 二木芳人名誉教授:
「ノロウイルス」「サポウイルス」「アストロウイルス」などにはアルコール消毒が効きません。アルコールに耐性があり、アルコールでは死なないのです。
コロナの時に、アルコールスプレーやジェルで手を消毒する習慣が出来ましたが、ノロウイルスなどには効果がありません。
せっけんと流水でしっかりウイルスを洗い流す必要があるのです。
これらのウイルスは感染力が非常に強いので、嘔吐物の処理をしている時にうつる可能性があります。
嘔吐したものがついた衣類や布団は、洗濯の前に消毒することが重要ですが、こちらもアルコールではだめです。塩素系(漂白剤など)消毒剤を使うか、熱湯消毒(85度以上の熱湯に1分以上浸す)をして下さい。
念のため、洗濯後に洗濯槽を洗浄した方が良いでしょう。
また、嘔吐物で汚染した床や壁は拭くだけでは不十分です。乾いた後もウイルスは残り、乾燥して空気中に浮遊する危険があります。
家庭内感染を防ぐためにも、しっかり処理を行い、同時に家族みんなが手洗いを徹底して下さい。

■症状治まってもウイルスは3週間は体内に
昭和大学 二木芳人名誉教授:
症状が収まり体調が回復した後も、3週間程度は油断しないで下さい。
ウイルスが体内に残っていて、便中に排泄され続けるのです。ですから、トイレの後しっかり手洗いするのはもちろん、食事前、調理前の手洗いなども徹底して下さい。
患者さん自身が「まだウイルスを持っているかも」と意識をすることが大切です。
これから梅雨の時期に入ると、ウイルスと入れ替わりに増えてくるのが「細菌」による感染、特に食中毒です。
食品衛生に十分気を付け、食中毒を起こさないよう、ひとりひとりが注意して下さい。
(昭和大学 二木芳人名誉教授)

(関西テレビ 2025年6月8日)