見事な“求愛ジャンプ”を見せるムツゴロウ。いまの時期、繁殖期を迎えている。ムツゴロウは、体長が15センチほどのハゼ科の魚だ。干潟に暮らし、泥の上を這ったり跳ねたりする姿が親しまれている。

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日本では、有明海と八代海の一部にしか生息していない。そのムツゴロウがいま、大きな危機に直面している。

レッドリスト最新版に掲載

沿岸開発により干潟が、年々減少するなか、干潟に生息するムツゴロウが、絶滅危惧種に指定された。国際自然保護連合(IUCN)による世界の絶滅危惧種をまとめたレッドリストの最新版に2025年、新たに掲載されたのだ。

中国や台湾、東南アジアにまで広く分布しているムツゴロウだが、日本では15年前と比べ、少なくとも30%減少した恐れがあるとIUCNは指摘している。IUCNの絶滅危惧種の分類では、上から3番目に危険度が高いと位置付けられた。

IUCN日本委員会会長の道家哲平さんは「問題は、特に干潟の埋め立てとか開発ですね」と環境の変化を危惧する。

「海辺の湿地がなくなっている危機的状況をムツゴロウが代表しているのかな」と話す道家さん。かつて国内最大級の生息地だった有明海の諫早湾では、干拓で干潟が消失しているのだ。

江戸時代からの伝統漁『ムツかけ』

有明海に面する福岡・柳川市。『川下り』や『鰻のセイロ蒸し』に加えて、ムツゴロウも貴重な観光資源のひとつとなっている。

水郷・柳川の名物『川下り』
水郷・柳川の名物『川下り』

『柳川むつごろう会』では、減りゆくムツゴロウに親しみ知ってもらおうと毎年この時期に伝統漁法『ムツかけ』体験を行っている。ムツかけは、江戸時代から伝わる伝統漁法で、その名の通り、竿の先に付いた針を干潟にいるムツゴロウに引っかけて1匹ずつ捕らえていく漁法だ。

取材した記者が『柳川むつごろう会』の森田保幸さんの指南を受けムツかけ漁に挑戦。「いま、その辺、奥の方にいますね。結構、大きめな個体が…」と沖を指差す森田さん。「ちょうど、おるところ目がけて、こう投げます。かからん人はもう2時間、3時間釣ってもかかりませんよ」と笑いながらムツかけ漁を指南してくれた。

ムツかけ漁を指南する『柳川むつごろう会』の森田保幸さん
ムツかけ漁を指南する『柳川むつごろう会』の森田保幸さん

早速、ムツかけ漁に挑戦する記者。しかし、なかなか引っかからない。「難しいな…」と竿を投げ続けること25分…ついに!「いいところに飛んだ!わっ!かかった、かかった!ようやく…、大きいんじゃないですか?これ」と手応えを口にする。

記者が釣り上げたムツゴロウは、20センチほどのサイズ。ムツゴロウとしてはビッグサイズだ。

記者が釣り上げたムツゴロウ
記者が釣り上げたムツゴロウ

伝統漁法を守り続けている森田さんは「昔から見ると、ムツゴロウはやっぱり減っているでしょうね。守っていかなければと思う。減ったけど、どうやって増やすか。環境を作ってやらないとダメでしょうね」と寂しそうに話した。

郷土料理としてのムツゴロウ

柳川では郷土料理としてもムツゴロウは大切な存在だ。有明海の新鮮な魚介類を提供している『夜明茶屋』(柳川市)。観光客にも人気の飲食店だ。

『夜明茶屋』で提供されているムツゴロウの刺身料理
『夜明茶屋』で提供されているムツゴロウの刺身料理

代表の金子英典さんは「子どもたちが、大きくなったときに『ムツゴロウっておったっちゃろ?』みたいな、そういうふうに言われないように、再び有明海がよみがえってほしいというのは本当に毎日、思っています」と絶滅危惧種入りに心を痛める。

IUCNは今回、ムツゴロウを含む4万7000種以上の野生動物を絶滅危惧種に指定した。IUCN日本委員会の道家さんは「レッドリストに掲載されて、すぐ何かが、例えば規制されるとか、罰則になるとかは起きません。あくまでも科学的な知見から、或る特定の生き物に対しての危機的状況を警告するということです。地域から自然を守るということの活動、暮らしのなかで守るという活動、そういったものが広がってほしいなと思っています」と話す。

レッドリスト掲載の評価を受けて、各国で法律や漁業のルールが作られる流れはある。過去には、大西洋クロマグロが絶滅危惧種に指定されたが、その後、世界各国で漁獲量の協議などが進み、生息数の大幅な改善にも成功している。ムツゴロウについても有明海沿岸住民の『今後の行動次第』とも言えるかもしれない。

(テレビ西日本)

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