福井県内の魅力を再発見する「小旅」のコーナーでは今回、福井市足羽山のふもとにある「丹巌洞」を訪れます。木々に囲まれたその草庵には、幕末に志士たちが語らい、心を通わせたとされる物語が残されています。幕末から今につながる「時を感じる小さな旅」へ誘います。
街中にありながら一歩足を踏み入れれば、まるで別世界に迷い込んだような静けさが広がる一角。石畳の道を進むと草庵「丹巌洞」が見えてきます。
今、この庵を守っているのは、敷地内で料亭を営む3代目の宮崎聖一さんです。「丹巌洞の“丹巌”は赤い土を意味する。この地は赤土。近くに洞窟があったかどうかは分からないが“洞”をつけた」と由来を語ります。
藩主・松平春嶽公をはじめ、橋本左内、由利公正、横井小楠など江戸から明治に変わる時代に活躍した人々が訪ねています。
丹巌洞が建てられたのは1846年。福井藩の医師、山本瑞庵がこの場所を選びました。心を落ち着かせる静かな別荘です。
「天井が低いので気を付けてください」と宮崎さんが案内してくれました。「私の身長は170センチほどですが、建て方としてここだけが低い。刀を抜かせない、自分の命を守るためのすべだったのではないか」
階段を上がると、室内は昔のまま。
「中二階には外に出られる裏玄関があります。笏谷石で橋をつくって、ここから出られるようにしている。命の保証のない時代ですから、もし何かあった時には山の中に逃げるすべだった」
元々は、この場所は笏谷石の石切り場でした。昭和の記録映像には宮崎さんの祖父が丹巌洞について語る姿も残っています。その時、祖父の伝さんは「幕末の志士の密会場所として有名になった。こういう炉端に座ってお酒でも飲みながら、時勢のことを語り合ったのかもしれませんね」と話していました。
祖父から父へ、そして今…この場所が語り継がれるように、家族でその歩みを刻んでいます。
「訪れた人も、入った瞬間に空気感が変わると感じてもらっている。来る人のために精一杯、庭を手入れしている。親が仕事をしている背中をずっと見てきたので、私は毎日一日一日の仕事を精一杯こなす。それだけ」
丹巌洞、ここは過去と今をつなぐ場所。静けさの中に、受け継がれてきた思いが確かに息づいています。
＜丹巌洞＞
福井市の足羽山公園のふもとにあり、市街地から車で10分ほど
見学は無料だが、事前連絡を
