泣かない遺族
高羽さんはこの25年、犯人を追い詰めようと活動を続けてきた。
2009年に未解決殺人事件の遺族らでつくる団体の発足に携わり、殺人事件では25年とされていた時効撤廃を求め、2010年に実現させた。他にも事件遺族らへの損害賠償を国が肩代わりする「代執行制度」やDNAを有効活用した捜査の法整備などを訴え続けている。
そんな高羽さんはこれまで、カメラの前では決して涙を見せてこなかったという。私も、毅然と取材に応じる高羽さんに触れ、これまで取材してきた他の遺族とは違う印象を受けた。
なぜ涙を見せないのか?その理由は、あるテレビ局の記者との出会いだったという。
「報道されたら犯人は気が気じゃないから見る。犯人を喜ばせないように、(遺族が)元気に遊んでいるところを(テレビで)流してほしいと。あなたのテロに屈しないと伝えたいんです。いつ捕まるか分からないというところまで追い込めていたら良いかなと思ってやってきました」
高羽さんは揺るぎない信念を持って、カメラの前で決して涙を見せてこなかった。
その思いに賛同してくれたテレビ局の記者は、あえて笑っているところを撮影してくれた。信頼できる記者との関わりが心の支えとなり、今でもその記者とは“飲み仲間”だという。
2000万円以上かけて現場保存
高羽さんは事件の4年前に奈美子さんと結婚。2歳の一人息子もいた。
家族で暮らすために分譲マンションの契約も済ませ、幸せの絶頂だったという。
「犯人の動機に思い当たることがなさすぎて、これで犯人が逮捕されるのなら、日本の警察ってすごいなと思いました」
カレンダーや息子が遊んでいた遊具など、部屋の中は事件の日のまま。玄関の大量の血痕は奈美子さんのものと思っていたが、事件から数年が経って犯人のものと分かった。
高羽さんは、今は住んでいないこの部屋を25年もの間、借り続けている。支払った家賃はあわせて2000万円を超えた。犯人逮捕後に正確な実況見分を行えるように現場を保存しているのだという。
さらに、犯人のDNAを持っている遺族ということで取材に来てくれるメディアが増えるという効果もあったそうだ。
血液のDNA型と目撃情報から犯人は女で、年齢は当時40代くらい。身長は約160cm、血液型はB型だと分かっている。
悟さんは、「当時からこれだけ証拠があるので捕まるだろうと言われてきましたが、私には全く実感がありません」と話す。この25年、犯人に近づいた瞬間はあったか尋ねると、答えは「ないです」だった。
「奇跡…」カメラの前で見せた涙
事件から25年が経とうとする中、当時2歳だった息子の航平さんが結婚した。未解決の殺人事件の遺族が親だと分かれば、航平さんの人生に悪影響があるかもしれない。それを心配し続けてきたからこそ、喜びもひとしおだった。しかもその相手は、奈美子さんの友達の娘だった。
「本当に嬉しかったんですよね、奇跡のような。名前聞いた時に本当に鳥肌が立つ思いでした。こんな幸せな時間が来るとは本当に25年前には思えなかったので僕の方から『ざまあ見ろ』と犯人に伝えたい」
そう語る目には、これまでカメラの前で見せることは無かった涙がにじんだ。
