多賀城市で飲酒運転の車が高校生の列に突っ込み、3人が亡くなった事故から5月22日で20年です。これほどのことが起きたにも関わらずいまだに飲酒運転は無くなりません。この事故で娘を亡くした父が癒えることのない悲しみと飲酒運転の現状への思いを明かしました。また当時を知る人の思い、そして、なぜ飲酒運転をするのか、その心理と危険性を改めて考えます。
5月22日朝、20年前の現場で手を合わせる人がいました。仙台育英高校社会科の郷古武先生(57)です。
仙台育英高校 郷古武先生
「亡くなられた3人のご冥福をお祈りするとともに、今後も飲酒運転の根絶に向けて、これからも啓蒙活動を続けていくという気持ちをこめて手を合わせました」
郷古先生は20年前の22日、校舎を出てすぐの場所でウォークラリー中の生徒たちを誘導していました。全ての生徒を見送り、次の地点に向かう途中で事故があったことに気が付きました。
仙台育英高校 郷古武先生
「体育着やいろいろなものが散乱していて、歩道には多くの生徒が震えながら座っていた。どんな事故だったのかと、しばらく理解ができなかった」
あれから20年、郷古先生は20年という時間の重みについてこう話します。
仙台育英高校 郷古武先生
「本来なら立派な社会人となって、社会のため、世の中のために人を支えていくような立場になって活躍してるんだろうなと思う。夢の途中で終わってしまったことになり、言葉には表せない。悔しいなというか」
この事故で亡くなった細井恵さん(当時15)。父・実さんが仙台放送の取材に、書面で答えてくださいました。
細井実さん
「今年の母の日は5月11日でした。当然と言えば当然ですが、恵からのプレゼントが届くことはありませんでした。『ありがとう』という言葉を聞くこともできませんでした。時間とは残酷なものです。事件から20年も経ってしまいました。その分、今生きてる私たちは年齢を重ねて老いていかざるを得ません。しかし恵の時間は20年前に留まったままです。いや事件によって奪われた命とともに奪われたまま、戻ってくることは無いのです。事件の前日に駅まで見送ったのに…その時、恵の後ろ姿を黙ってみていただけの自分に深い後悔を抱えたまま、生きているのです」
また、細井さんは事故の1年後に新聞に寄せた手記を引用し、今の気持ちをつづりました。
「手記は『いつか神が涙をぬぐってくれる時が来ることを信じて、少しでも前を向いて生きていきたいと思います』という言葉で終わっています。そのような時がいつ訪れるのか。でも信じて待つより道は無いのです」
そして、いまだになくならない飲酒運転について。
細井実さん
「5月22日が来るのをあざ笑うように、飲酒運転による大きな事件が連続して起こりました。ただあぜんとして、なんと愚かな、情けないことだと思いながら、悔しさや、怒りがこみ上げてきます。してはいけないことだと理解はしていても、一時の迷いや油断、過信等が飲酒運転をさせてしまっているのでしょうか。運転するのは人間です。人間は不完全であり、過ちは誰でも犯す恐れがあるわけです。ですから、飲酒運転は犯罪である。殺人や傷害と同じ犯罪であるとの認識を社会のモラルの一つとしてだれもが良心に留め、過ちを犯すことなく生きていってほしいと思います」
飲酒運転は、たびたび罰則が強化されてきましたが、いまだに後を絶たない社会問題です。全国の飲酒運転の検挙数と飲酒運転による事故の件数は、20年前と比較すると大きく減少していますが、去年1年間で2万件を超える検挙があり、140件の死亡事故が起きています。
宮城県内でも20年前と比較すると飲酒運転による事故件数は大きく減少しましたが、去年1年間で39件の事故がありました。
交通心理学の専門家は、飲酒運転の一番の原因は「過信」だと話します。
東北工業大学(交通心理学) 太田博雄名誉教授
「気持ちは大丈夫だと思っても、実際は相当危ない。その主観と客観との乖離(かいり)、ずれ、やはり自分では大丈夫だと思ったとしても、実際にはそうじゃないんだということが、まだやっぱり理解されてない」
こちらは飲酒運転の実験映像です。ハンドル操作が不安定で車が大きく蛇行しています。
この映像では、安全確認を怠り、自転車に衝突してしまいました。
東北工業大学(交通心理学) 太田博雄名誉教授
「飲むとどういうことになるかというと、気持ちが大きくなるわけですよ。本当は不安全なのに『自分の運転は全く問題ない』。そういう誤った考え方が飲酒によって加速される」
「自分だけは大丈夫」「事故を起こさない自信がある」
そうした過信が人の命まで奪うことにつながるのです。
5月22日、仙台育英高校の生徒などおよそ100人が事故現場に立ち飲酒運転根絶を呼びかけました。生徒の代表は20年経っても無くならない飲酒運転に対する憤りを訴えました。
仙台育英高校 生徒会副会長 石橋咲希さん(3年)
「残念なことに飲酒運転による事故の報道が後を絶たず、飲酒運転が無くならない現状に強い憤りを覚えます」
5月22日は「飲酒運転根絶の日」。20年前のこの事故を機に県が定めたものです。20年前と比較して件数は減ったものの、いまだに無くならない飲酒運転。県警は今後も根絶に向けて取り組んでいくとしています。
宮城県警察本部交通企画課 沖興一課長補佐
「飲酒運転の取り締まりとともに、関係機関、団体の方々との連携した広報啓発活動を推進していきます。飲酒運転は凶悪な犯罪です。絶対にやめてください」
「飲酒運転は絶対にしない。許さない」
高校生たちの声をドライバー一人一人が自覚すれば飲酒運転は無くなるはずです。