二人が恋に落ちたその瞬間から、終幕の静寂まで…人間の感情を、踊りだけで演じるバレエの名作『ロミオとジュリエット』。1965年、伝説的振付師ケネス・マクミランによって振り付けられたこの作品は、世界最高峰の英国ロイヤル・バレエの象徴とも言える存在となり、今日まで世界中で上演されてきた。

2025年6月6日、この名作が映画館の全国のスクリーンに映し出される。『英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ 2024/25』の一環として、一週間だけの特別な上映だ。
ジュリエットを演じた金子扶生(ふみ)さんと、ティボルト役の平野亮一さんに名作への想いなどを聞いた。
金子扶生さんに聞く ―「ジュリエットとして生きる」
「ジュリエット役でデビューしたのが、ちょうど30歳になる直前でした。13歳の少女を演じるなんて、まさか自分がキャスティングされるとは思っていなかったんです。」
こう『ロミオとジュリエット』の主演に抜てきされた時について語る金子扶生さん。
映画を観たり、原作を読んだりしながら、自らのジュリエット像をつくりあげていったという。

「ジュリエットを踊ったときに初めて、舞台の上で“他人の人生を生きる”という経験をしました。彼女の人生を最初から最後まで、つまり“死ぬまで”生きることで、それまでのバレエの捉え方が根底から変わったような気がしました。心に残っている、大切な、大切な役です。」
また、「映画では、舞台では見逃されがちな細やかな表情や動きを伝えられる。そういう意味でも、今回の上映には特別な意味があると思います」と語る。

ロイヤル・バレエのプリンシパルになって4年の金子さん、大きなけがを経験した過去については、「踊れない期間も長く、精神的にもつらい時期でした。でもその経験があったからこそ、今の自分があると感じています」と振り返った。
平野亮一さんが語る ―「踊らない役の重み」
『ロミオとジュリエット』について「ロイヤル・バレエの代表作のひとつであり、名作中の名作です。子どものころから憧れていた作品に、自分が出演することになったのはやはり感慨深いですね」と語る平野さん。
ティボルト役はソード・ファイトの場面に代表されるように、踊りの要素よりも演技力に重きが置かれる。「言葉を使わない表現だからこそ、そこに嘘があってはいけない。物語が通らなくなる。そう思って臨んでいます。」

今回の映画上映について、「映画館でバレエを観るのは少し不思議に感じる方もいるかもしれませんが、逆に細部までじっくり見られる。それが魅力でもあると思います」と語る。
「これをきっかけに、“いつか本物のロイヤル・オペラハウスで観てみたい”と思ってもらえたら。」
ロイヤル・バレエに入団して今年で24年の平野さんは、自身のキャリアについて、「バレエは体力勝負。いつまで踊れるかはわかりません。でも現役でいる間は、できる限りの準備と稽古を積み、後悔の残らないよう観客の前に立ち続けたいです」と締めくくった。

『ロミオとジュリエット』は、550回以上にわたり上演されてきた英ロイヤル・バレエの重要なレパートリー。マクミランによる心理描写を含んだ振付とプロコフィエフのドラマティックな音楽で、観る者をルネサンス期のヴェローナへと引き込んでいく。
映画館という場所でバレエを観ること——金子さんも平野さんも語っているように、そこに映し出される表情や動きには、舞台とは違った質の「近さ」がある。バレエを日常的に観る人にとっても、初めて触れる人にとっても、この“近さ”は新鮮に感じられるのではないだろうか。
(聞き手:ロンドン支局 田中雄気)
作品情報
<東宝東和配給>
英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ 2024/25
ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』
上映期間:2025年6月6日(金)~6月12日(木)
出演:金子扶生(ジュリエット)、ワディム・ムンタギロフ(ロミオ)、平野亮一(ティボルト)ほか