鉛筆だけを使い、まるで写真のようなリアルな世界を描き出す。岡山県在住の鉛筆画家、大森浩平さん(30)の作品展が、鹿児島市の長島美術館で開催されている。九州初となるこの展覧会は、見る者を驚かせる異次元の緻密さが訪れた人の目をくぎ付けにしている。
鉛筆で描かれた「信じられない」世界
展示会場に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるデジタル腕時計の作品。光沢感があり、写真にしか見えない。しかしこれは鉛筆で描かれた「絵画」なのである。

大森浩平さんの作品は7種類の濃さの鉛筆を駆使して描かれていて、その精巧さはまるで写真を見ているようだ。その発信のきっかけとなったのが、ボルトとナットを描いた作品だ。大森さんが「この作品が一番長く時間をかけていて、280時間、期間にして5カ月」かけて描いたこの作品は、SNS 上で注目され、30万もの「いいね」を獲得した。

1994年岡山市生まれの大森さん。デザインを学ぶため大学に進学したものの、課題を次々にこなしていく環境が合わず、道に迷っていたというが、この投稿を機に、鉛筆画に力を入れ始めた。「どのモチーフも一度写真に収めて描いている。自分の納得いく瞬間を切り取って、そのものが一番美しく見えるような見せ方にこだわっている」と大森さんは語る。
神経質さが生み出す緻密な世界
大森さんの作品の特徴はなんと言ってもその驚くべき緻密さだ。作品「水に濡れた女性」では、水滴の輝きや金属の質感まで、あらゆる細部が忠実に再現されている。しかし、大森さんによると、これらを意識的に描き分けているわけではなく、「忠実に部分部分、狭い箇所に集中して描けば水は水に、金属は金属になる」という。


大森さんの制作過程を収めた動画は自身のSNSに公開されていて、作品展の会場でも上映されている。動画を見ると、左から右へと線を重ねるように描き進める様子がよく分かる。最後にその質感が写真のように現れるのだ。この異次元の緻密さは、大森さん自身が認める「神経質な性格」ゆえの賜物だという。
生きづらさを武器に
しかし、その神経質さゆえの苦労もある。絵を描くことや作品を完璧に保存することに神経をすり減らし、一時は描けなくなってしまったこともあったという。
それでも、大森さんは自身の特性を生かし続けている。「SNS出身の鉛筆画家だが、みなさんの反応やリアクションをもらうことでやりがいを感じるし、次はもっとクオリティを上げた作品を描こうという励みになる」と、前を向く姿勢を見せる。

会場に並ぶ一枚一枚は、まさに大森さんでなければ生み出せなかった作品ばかりだ。生きづらさを武器に変え、独自の表現を追求し続ける大森さんの姿勢は、鹿児島の芸術愛好家たちにも新たな刺激を与えているようだ。
鉛筆画 大森浩平展は、5月18日まで鹿児島市の長島美術館で開催される。九州初となるこの展覧会は、地域の芸術シーンに新たな風を吹き込むことだろう。鹿児島の人々にとって、身近な鉛筆が生み出す驚異の世界を体験する貴重な機会となりそうだ。
(鹿児島テレビ)